日本の医薬品市場は今、静かに空洞化しています。薬価制度改革と市場の成熟により、国内はもはや“成長市場”ではなくなりました。主要製薬25社のうち、2023年度には海外売上比率が平均67.9%に達し、武田薬品は実に89.4%が海外売上。その半数を米国が占めています。
米中をはじめとする巨大市場への進出は、企業として当然の判断です。しかし、内資系企業までが海外に主戦場を移すということは、単なる経営判断を超えて国家的リスクを孕みます。
第一に、人的・資金的リソースが国外へ流出し、国内での新薬開発やニッチな疾患領域、災害時の供給体制といった「日本だからこそ必要な医薬品」の担い手が失われつつあります。
第二に、採算が合わないという理由で、小児用や希少疾患薬が相次いで販売中止に。必要でも手に入らない、そんな「医薬品アクセスの格差」が広がっています。
第三に、日本の医療制度と企業戦略がかみ合わなくなっている点も見逃せません。国民皆保険制度に支えられた薬価政策が内資企業の撤退を招くという“制度疲労”が進行中です。
こうした状況で頼みの綱となる外資系企業も、為替や本国都合で撤退・販売中止を決めるリスクを孕んでいます。すでにその兆候は現れており、日本市場は“魅力のない市場”と見なされつつあります。
本来、内資製薬は日本人の命と健康を守るラストラインでした。地方医療の維持、国産ワクチンの確保、災害時の医薬品安定供給など、外資では代替できない役割があるはずです。それが今、合理化と効率の名のもとに崩れようとしています。
企業の成長は必要です。しかし、それと引き換えに「国内を見捨てる」のであれば、問われるべきは国家の覚悟です。薬価だけを弄る時代は終わりました。
国産医薬品の戦略的確保、開発への投資インセンティブ、制度改革を伴った医薬品産業の再構築など、いまこそ政策転換が求められています。
