企業経営において、売上と利益は切り離して考えられない重要な指標です。しかし、売上がどれだけ高くても、適切な利益を生み出せなければ、事業の継続性は大きな危機にさらされます。一方で、市場における競争環境を測るうえで「利益」という指標はあまり適切ではありません。競争力や市場でのポジションを考える際、やはり売上が優先的な指標として重要視されます。

売上が競争力の象徴である理由

売上は、市場シェアや競争優位性を測る最も直接的な指標です。市場における自社の存在感を示すだけでなく、売上の規模は資金調達力や投資余力にも直結します。そのため、多くの企業が売上の最大化を目指し、競争戦略を構築します。しかし、売上は外部要因に強く影響されるのが実情です。市場の需要動向、顧客の選択、そして競合他社の戦略など、自社でコントロールしにくい変数が多く絡んでいます。

利益のコントロール可能性と経営者の裁量

一方で、利益は内部的な取り組みによってコントロール可能な範囲が広い点が特徴です。原材料費の削減、業務効率化、固定費の見直し、販売チャネルの最適化など、経営者の采配次第で直接的な改善が可能です。これは、特に市場が停滞している状況では顕著です。市場全体が成長期であれば、売上を伸ばす戦略でカバーできる部分が多いですが、停滞期や縮小期には利益の確保が企業存続の鍵を握ることになります。

売上と利益のバランスを見極める重要性

しかし、この売上と利益のジレンマは単純な二項対立ではありません。売上が低迷すれば当然、利益を確保する余地も狭まります。一方で、利益を優先するあまりコスト削減に注力しすぎると、事業の成長性が失われ、将来的な競争力に悪影響を及ぼす可能性があります。経営者が求められるのは、このバランスを見極める力です。

たとえば、市場が縮小している場合、競合他社の撤退によって一部の顧客を獲得できる可能性があります。その際に重要なのは、どれだけのリソースを売上確保に割り当てるか、そしてその投資がどれだけの利益を生むかを慎重に判断することです。さらに、利益を確保するためのコスト削減策も短期的なものに留めず、中長期的な成長につながる効率化や事業再構築を進める必要があります。

市場停滞期における経営者の挑戦

特に市場が停滞期に入ると、この売上と利益のジレンマはより顕著になります。全体の市場規模が伸び悩む中で、他社との差別化や効率的なリソース配分が求められる一方で、収益基盤を支える利益率の維持が経営の最大の課題となります。競争が激化する中で、単純に価格を下げて売上を追求するのではなく、顧客価値を高め、利益を生み出す仕組みを構築する必要があります。

経営者には、市場環境の変化に即した柔軟な発想と、長期的な視野を持った意思決定が求められます。売上は市場でのポジションを守るための武器であり、利益は事業を継続するための防御手段とも言えます。この両者のバランスをいかに取りながら企業価値を最大化するか——これが経営者に課された永遠のテーマなのです。

結論

売上と利益の関係性を理解し、このジレンマに挑むことは、経営者にとって避けて通れない課題です。短期的な利益追求に偏ることなく、売上を成長させる戦略と利益を守る方策をバランスよく組み合わせることが、持続可能な経営を実現する鍵となります。市場停滞期においても、この課題に真摯に向き合い、最適な判断を下す経営者こそが、企業の未来を切り開くことができるのです。

2014年と2023年の、国内医薬品メーカー上位5社のデータから競争環境の変化を検証してみましょう。およそ10年間で製薬業界では企業間の売上格差が大きく拡大しています。特に、武田薬品工業のような大手企業が圧倒的な存在感を示す「一強多弱」の構図が鮮明になりました。

2014年 vs. 2023年:売上データの比較

順位企業名2014年売上高(億円)2023年売上高(億円)増加額(億円)
1武田薬品工業15,00040,275+25,275
2大塚ホールディングス12,00017,380+5,380
3アステラス製薬11,00015,186+4,186
4第一三共10,00012,785+2,785
5エーザイ8,00010,000+2,000

この表から、武田薬品が他社を圧倒する成長を遂げたことが分かります。2014年に2位の大塚ホールディングスとの差は3,000億円でしたが、2023年には22,895億円にまで広がりました。

一方、トップ10内の他の企業の成長率は武田に比べて緩やかであり、売上規模の格差が顕著になっています。


データが示す「一強化」の背景

  1. 武田薬品の圧倒的なグローバル展開
    武田薬品は、2014年以降にシャイアーをはじめとする複数の大規模M&Aを実施。これにより、売上高が大幅に拡大しました。武田の売上増加額(25,275億円)は、同期間における他の上位企業全体の増加額を上回っています。
  2. 国内市場の停滞と他社の成長限界
    国内市場は人口減少や医療費抑制政策の影響で縮小傾向にあります。この結果、多くの企業が国内市場依存型のビジネスモデルに限界を感じ、新しい収益源の開拓に苦慮しています。特に中堅企業は、海外展開のためのリソースやノウハウが不足しており、成長が停滞しています。
  3. ゼロサムゲーム化による競争激化
    国内市場が縮小する中で、企業間の競争はゼロサムゲーム化しています。リソースを豊富に持つ大手企業が優位に立つ一方で、中堅企業は新たな成長機会を見いだすのに苦労しています。

市場縮小が企業戦略に与える影響

データが示すのは、国内市場が成長期から停滞・縮小期に移行する中で、従来のビジネスモデルでは十分に対応できなくなったという事実です。縮小市場では、新薬開発や差別化戦略の実行がより重要になりますが、リソースが限られる中堅企業にとっては難しい課題となっています。

データから見える今後の方向性

このデータは、縮小市場の中で「変化への対応力」が企業間の競争力に直結することを示しています。武田薬品のように、迅速な戦略転換を行い、成長市場を海外に見いだした企業が成功を収めています。一方で、他の企業にとっては以下が重要な課題となります:

  1. 縮小市場における集中戦略
    リソースを特定の分野やニッチ市場に集中させ、競争優位を確立する。
  2. グローバル展開と新薬開発力の強化
    海外市場をターゲットにするための基盤づくりが必要です。
  3. デジタル技術の活用
    DXによる効率化や、エビデンスベースの営業活動で差別化を図る。

海外へ販路を広げることで活路を見出すのか、あるいは縮小市場の中で、新たなビジネスモデルを確立し、ゲームチェンジャーとなるのか、各社の戦略が大きな岐路となりそうです。

VEEAのCRMと同様に、製薬業界ではIQVIA社の医薬品販売データベースが多くの企業で導入されています。医薬品販売データベースは市場/顧客と競合、そして自社の3Cデータであり、市場競争を定量化し、戦略的な意思決定のための重要なデータです。一方で多くの製薬企業が同じデータを所有するということは、お互いの競争状況が丸裸とも言えます。これはVEEVAと同様に、非常に有効なツールでありながら、同時にリスクを内包していると言えます。特に市場縮小期のゼロサムのゲーム型競争では脅威となります。

IQVIAデータベースとVEEVA CRMの利点

  1. データの一貫性と精度:
    • IQVIAの医薬品販売データベースは、市場、顧客、競合、そして自社の情報を3C視点で網羅しており、販売動向の把握や市場競争の定量化に非常に有効です。
    • VEEVA CRMは、これらのデータを活用しながら、MRの活動を管理し、顧客関係を効率的に構築するツールとして機能します。
  2. 迅速な意思決定支援:
    • 同じデータセットを利用することで、製薬企業間での市場理解が標準化され、競争環境を迅速に把握することが可能です。
    • 特に市場規模やシェア、競合の強み・弱みなどの情報を基に、戦略を柔軟に調整できます。

リスクと課題

  1. 競争状況の透明性が高すぎる:
    • 多くの製薬企業が同一のIQVIAデータを所有する状況では、競争状況が「丸裸」になるというリスクがあります。
    • 競合他社のシェアや成長率、ターゲット顧客などが容易に推測できるため、独自戦略が模倣される危険性が高まります。
  2. 差別化の困難さ:
    • 同じデータを基にした戦略では、企業ごとの活動が均質化し、競争優位性を確立することが難しくなる傾向があります。
    • 特に市場縮小期では、シェアの奪い合いが激化し、データ活用だけでは優位性を確保しにくくなります。
  3. 市場縮小期でのリスク増大:
    • 市場が成長している場合、同じデータを使っても全体の売上が拡大するため、リスクは相対的に低いです。
    • しかし市場縮小期では、ゼロサムゲーム的な競争が強まり、IQVIAデータやVEEVA CRMの使い方次第で勝者と敗者が明確に分かれます。

対策と補完ツールの必要性

  1. 独自分析ツールの導入:
    • IQVIAやVEEVAのデータを基に、独自の分析アルゴリズムを用いることで、差別化された戦略を構築する必要があります。
    • 例えば、DXS Stratify®のようなツールを活用して、市場シェア理論や競争優位性を数値化・可視化し、戦略的な意思決定をサポートすることが有効です。
  2. 戦略的資源配分の強化:
    • 競合の活動を考慮したうえで、リソースを効率的に配分する必要があります。
    • 例えば、IQVIAデータを補完する形で、競合の隙間市場や新たな顧客セグメントを見つけることが重要です。
  3. オリジナリティの確保:
    • 顧客ターゲティングや情報提供の質を高めるために、企業独自のデータやインサイトを加える必要があります。
    • これにより、競合との差別化が可能になり、同じデータを使っていても異なる結果を得られます。

まとめ

IQVIAの医薬品販売データベースやVEEVA CRMは非常に強力なツールであり、製薬業界の競争において不可欠な存在です。しかし、それらを利用する企業が増えるほど、競争環境が透明化し、差別化が困難になるリスクが高まります。

特に市場縮小期では、これらのツールをそのまま利用するだけでは競争優位性を確保できない可能性があります。DXS Stratify®のような独自の補完ツールを導入し、戦略の差別化と市場縮小に対するリスクヘッジを図ることが、必要となるでしょう。


1. VEEVA CRMの限界

医薬品業界では、製薬企業がMRを通じて適切な情報提供を行うことが法的・倫理的に求められています。そのため、企業がMRの行動目標をCRMで管理することにより、科学的根拠に基づく情報提供活動を可能にしています。VEEVA社のCRMは顧客関係管理のプラットフォームとして優れた機能を提供していますが、売上に結び付けるためには以下の点で限界があると考えられます。

  1. 分析視点の不足:
    • VEEVAは顧客とのエンゲージメントやKPI管理を効率化するツールであり、競争環境や市場データを基にした戦略的な分析は含まれていません。
    • 特に競合状況や市場シェアの動向を可視化する機能はなく、競合対策を立てる際に十分な情報が得られない。
  2. 標準化されたアプローチ:
    • VEEVAは多くの製薬企業で採用されており、同様の機能やデータの使用により、各企業のMR活動が均質化(同一化)しやすい。
    • これにより、差別化が困難となり、競争優位性を失うリスクが高まります。
  3. ターゲティングの限界:
    • 顧客の行動履歴やエンゲージメントデータを活用しますが、顧客の競争環境におけるポジション(例:競合のロイヤルカスタマーなど)や市場規模を考慮した細分化されたターゲティングが難しい。

2. DXS Stratify®の必要性と価値

DXS Stratify®は、VEEVA CRMにはない戦略的分析と競争力の可視化を提供します。

(1) 市場と競争環境の可視化

DXS Stratify®は、製薬業界における以下のデータを基に分析を行います:

  • 市場規模: どの顧客セグメントが大きな売上ポテンシャルを持つかを把握。
  • 競合のポジション: 顧客が自社・競合のどちらに近いか(ロイヤルカスタマー・ニュートラル・競合のロイヤルカスタマー)。
  • 競争優位性: シェア理論を基に、自社が競合に対して優位に立てる分野を特定。

これにより、VEEVAが提供するエンゲージメントデータを補完し、顧客ターゲティングとリソース配分を戦略的に行うことが可能です。

(2) 差別化戦略の構築

DXS Stratify®は、競争環境を数値で可視化し、以下のような差別化された戦略を導きます:

  • 競争優位な市場の攻略:
    • 自社の競争優位な市場や、競合が劣位なターゲットを特定し、効率的にリソースを投入。
  • 顧客タイプごとの戦略:
    • 顧客を市場規模と競争優位性で分類し、それぞれに適したアプローチ(ニッチ・集中戦略、差別化戦略など)を設計。

(3) KPIだけでなくKSFに基づく戦略実行

VEEVAのKPI管理だけでは、成功の要因(KSF)を把握しにくいですが、DXS Stratify®は以下を提供します:

  • KSFの特定: 競争環境で成果を上げるために必要な行動や条件を明確化。
  • 戦略的KPI設定: KPIを単なる活動量ではなく、戦力量として換算し競争優位性を高めるため有効なチャネルと結びつけます。

(4) 長期的視点での戦略支援

  • DXS Stratify®は短期的な行動管理だけでなく、長期的な市場シェア拡大や競争優位性の強化に向けた戦略をサポートします。

3. 競争環境の中での必要性

製薬業界は現在、縮小市場ゼロサムゲームに直面しており、競合他社との差別化がますます重要になっています。VEEVAのようなCRMだけでは、以下の課題を解決するのが難しいです:

  • 競合の動向を踏まえた戦略的リソース配分。
  • 顧客との関係性の強化に加え、市場での優位性の確立。
  • データを基にした明確なターゲット設定。

DXS Stratify®はこれらの課題を解決し、企業が競争環境で勝ち残るための「競争力の見える化」を提供します。


まとめ

VEEVA CRMが普及している製薬業界においても、競争優位性を高めるにはVEEVAだけでは十分とは言えません。DXS Stratify®は、競争環境の可視化、戦略的なターゲティング、差別化戦略の実行を可能にするため、製薬企業にとって必要不可欠なツールとなります。VEEVAと併用することで、CRMのデータを最大限に活用しつつ、戦略的な意思決定をサポートすることができます。

*このコラムでは、筆者の個人的な見解を述べています。そのため、内容によっては誤った情報や誤解を招く表現が含まれている可能性があります。そのような場合には、ぜひコメントをお寄せください。皆さまからのフィードバックを基に、さらに有益な情報を提供できるよう努めてまいります。どうぞお気軽にご意見をお聞かせください。

製薬業界ではVEEVA社のCRMが採用されています。同じクラスの薬剤の場合、ターゲット顧客は同じになりますが、例えば、その顧客がA社にとってはロイヤルカスタマー、B社にとっては競合と拮抗する顧客、C社にとっては競合のロイヤルカスタマーだとします。その場合、CRMのサジェスチョンはC社にとって競争優位性を得ことにつながるでしょうか?

同じターゲット顧客が会社ごとに異なる関係性(例:A社にとってはロイヤルカスタマー、B社にとっては競合と拮抗する顧客、C社にとっては競合のロイヤルカスタマー)を持つ場合、CRMシステムは、特にC社の競合攻略戦略に特化したサジェスチョンを提供するわけではありません。これは、システムの設定に依存することになります。

主なポイント

  1. 標準的なCRMの機能:
    • CRMシステムは、主に顧客とのやり取りを効率化し、エンゲージメントを追跡するために設計されていますが、競合分析ツールそのものではありません。これらのシステムは、企業が入力するデータ(顧客セグメンテーション、エンゲージメント履歴、市場データ)に基づいて動作します。
  2. 戦略的な設定:
    • C社がCRMを設定して、競合が強い影響を持つ顧客を特定し、ターゲットにするようカスタマイズすれば、そのシステムはその顧客に対する優先順位を高めるサジェスチョンを提供できます。この場合、外部データ(競合の顧客データなど)や社内分析(市場シェアの洞察など)を統合する必要があります。
    • こうしたカスタマイズがなければ、CRMのサジェスチョンは競合状況を明確に考慮せず、一般的なエンゲージメント戦略に基づくものとなります。
  3. 競合分析レイヤー:
    • 競合のロイヤルカスタマーを攻略するためにCRMを活用するには、追加のツールや手法を統合する必要があります。例えば:
      • DXS Stratify®や類似の分析ツールをCRMと併用することで、競争環境を可視化し、特定の顧客セグメントをターゲットにする戦略を提案することができます。
      • 市場シェア理論やランチェスターの法則を組み込んだアルゴリズムを使用すれば、競争上重要なターゲットを優先的に選定できます。
  4. 戦略的意図:
    • CRMシステムの提案内容は、そのシステムに組み込まれた戦略に依存します。C社が競合から市場シェアを奪取することを目指すのであれば、システムは現在の顧客関係を維持するだけでなく、競合攻略に向けた高インパクトのターゲットを特定する方向に設定される必要があります。

結論として、CRMは、競合の顧客を攻略する戦略を明確に設定しない限り、そのようなサジェスチョンを自動的に提供するわけではないことは知っておく必要があるでしょう。

*このコラムでは、筆者の個人的な見解を述べています。そのため、内容によっては誤った情報や誤解を招く表現が含まれている可能性があります。そのような場合には、ぜひコメントをお寄せください。皆さまからのフィードバックを基に、さらに有益な情報を提供できるよう努めてまいります。どうぞお気軽にご意見をお聞かせください。

KPIだけを評価指標にし、KBI(Key Behavior Indicator)やKSF(Key Success Factor)を用いず、さらに競合を意識しないMR活動を続けた場合に、競争優位性を獲得し、売上を高めることは現実的に非常に難しくなります


1. KPIの限界

KPIは主に「結果」や「行動量」を数値化した指標であり、過程や成功要因を深く理解することは難しいです。

  • KPIの例:訪問回数、プレゼン回数、説明会開催数など。
  • これらの指標だけでは、「なぜ成功したのか」「なぜ成果が出なかったのか」を解明できません。

また、結果的に達成されるべき目標(KGI)との因果関係が明確でない場合、KPIの達成が売上や競争優位性の向上に結びつかない可能性があります。


2. KBIやKSFの重要性

  • KBI(Key Behavior Indicator): MRの行動やスキルの中で、成功に直結する重要な行動を定義します(例: 医師への治療提案の質、科学的根拠に基づいたディスカッション)。
  • KSF(Key Success Factor): 市場や競争環境における成功要因を特定し、それを達成するための戦略を明確化します(例: 特定領域での専門性の強化、競合他社との差別化ポイントの提示)。

これらを用いない場合、結果を導く重要な行動や成功要因を見失い、漫然とした活動に陥る可能性があります。


3. 競合を意識しない活動のリスク

製薬業界は基本的にゼロサムゲームの市場であり、特に成熟市場や縮小市場では他社との差別化が売上拡大に不可欠です。

  • 競合を意識しない場合:
    • 競合との差別化ポイントが不明確になり、MR活動が均質化(同一化)する。
    • 顧客側(医師など)から見て、「どの会社を選んでも同じ」という状況になり、価格競争や単純なリーチ量の勝負になりやすい。
  • 結果:
    • 競争優位性を得るどころか、競争劣位に陥るリスクが高まる。

4. 成果を出すために必要な要素

競争優位性を獲得し、売上を高めるには、以下のような要素が必要です:

  • 戦略の明確化:
    • 自社の製品が競合他社に対してどのように優れているかを明確化し、MRがその強みを活かせる戦略を立案。
    • 特に競合の弱点や隙間市場をターゲットにすることが有効(例: ランチェスター戦略の応用)。
  • 差別化されたMR活動:
    • MRが単に情報を提供するだけではなく、医師のニーズに応じたソリューション提案を行う。
    • 競合に勝つためのポイント(例: 医師の未解決ニーズに対応するエビデンスの提供)を強化。
  • KBIやKSFを活用:
    • KPIだけでなく、成功に直結する行動や条件を明確にし、それに基づいて活動を最適化。
  • 競合との比較分析:
    • 自社のポジションを明確化し、競合と顧客の関係性(競合のロイヤルカスタマーや新規顧客など)を理解する。

結論

KPIのみを指標とし、競合を意識しない活動では競争優位性を獲得し、売上を高めることはほぼ不可能です。競争市場で成功するには、KPIを含む多面的な指標を用いて、戦略的かつ差別化されたアプローチが不可欠です。

製薬企業が競争市場で持続的に売上を伸ばすためには、単なる活動量の管理ではなく、戦略的な視点での顧客理解、競合分析、成功要因の特定が求められています。

ビジネスの成功を目指すうえで、多くの人が陥りがちなのが、自分ではどうにもならない要素に過度に注目し、貴重なリソースを浪費してしまうことです。しかし、成果を生むための第一歩は、自分がコントロール可能なものにスコープすることです。アナロジー思考で、料理に例えてみましょう。


料理を作る際、「何人分作るか」「材料をどれだけ用意するか」といったは、調理前に計画可能な要素です。一方で、料理が「どれだけ美味しいか」というは、出来上がって初めて評価できるものであり、多くの要因が絡むため完全にコントロールすることは難しいものです。

ビジネスにおいても同じです。人員、予算、時間、ツールといったコントロール可能なリソース量を明確にし、それを最大限に活用することで、活動の質を間接的に向上させる基盤を作ることができます。


コントロール可能なものを優先すべき3つの理由

  1. 安定した成果を生み出せる
    自分で管理できる領域に集中することで、不確定要素に左右されず、持続可能な成果を実現できます。
  2. リソースの最適配分が可能になる
    自分の手で調整できない要因に注力するのは、結果的にリソースの浪費につながります。コントロール可能な部分に注力することで、効率的なリソース配分が可能です。
  3. 改善が容易になる
    コントロール可能な領域でPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回すことで、試行錯誤を通じて着実に前進できます。

具体的に何をコントロールすべきか?

  • 量の計画と管理
    例えば、どれだけのリソースが必要かを数値化し、具体的な目標を立てることが重要です。材料が足りなければ、どれだけ腕の良いシェフでも料理は完成しません。
  • 基準の明確化
    質を完全にコントロールすることは難しいですが、基準や目標を事前に設定し、それに向かって努力することは可能です。たとえば、「お客様が満足するための最低限の要件」を定義することが有効です。
  • フィードバックを受け入れる
    質の向上には、関係者からのフィードバックが欠かせません。質が不確定であるからこそ、適切なフィードバックを活用し、必要に応じて柔軟に対応することが求められます。

質と量の問題を料理に例えると、最終的に評価されるのは「味」、つまり質です。しかし、それを支えるのは「材料や人数分」といった量に関する計画や準備です。ビジネスでも同様に、まずはコントロール可能な領域に注力し、そこで得た成果を基盤に次のステップへ進むことが、結局のところ成功への近道となるのです。

「マーケティング戦略」という言葉は、ビジネスの場で頻繁に使われる表現です。しかし、本来、「戦略」と「マーケティング」はそれぞれ独立して定義されるべきものです。そして特に重要なのは、戦略がマーケティングの上位概念であるという点です。

戦略とは、企業が競争優位を築き目標を達成するための方向性を示し、リソースを最適に配分する包括的な計画です。一方で、マーケティングはその戦略の中で、顧客に価値を提供し、市場における優位性を確保するための具体的な活動を指します。両者の役割を正確に理解することで、ビジネス全体の計画と実行が整合性を持つようになります。

過去の市場成長期においては、戦略やマーケティングが多少曖昧であっても、自然な市場拡大により成果が得られることがありました。しかし、現代のような市場縮小期においては、精緻な戦略思考が求められています

さらに、「マーケティング戦略」という言葉自体には、総論(全体の方向性)と各論(具体的な施策)を混在させる危険性があります。たとえば、「我々のマーケティング戦略はSNS広告の強化だ」という議論があった場合、それは戦略全体を語っているのか、それとも単なる戦術レベルの施策を指しているのかが不明瞭です。このような曖昧さが、会議や意思決定の場で混乱を招く原因となります。

1. 総論と各論を分ける重要性

  • 総論(戦略全体)と各論(特定の戦術や分野)は異なるレイヤーに属し、それぞれ独立して議論されるべきです。
  • 「マーケティング戦略」という言葉を使用する際に、この総論と各論が混同されると、議論が表面的になり、本質的な課題解決が難しくなります。

例えば:

  • 総論(戦略):「我々は市場リーダーを目指す」
  • 各論(マーケティングの計画):「新製品を使ったターゲット市場の認知拡大を目指すキャンペーンを実施する」

この2つを混ぜて「マーケティング戦略」として話すと、どのレイヤーで議論しているのかが不明確になります。


2. なぜ「マーケティング戦略」が混乱を招くか

(1) 用語自体の曖昧さ

「マーケティング戦略」という言葉が、戦略全体の一部なのか、それとも単なるマーケティング施策を指すのかが明確でない場合、参加者によって解釈が異なります。

(2) 概念の多層性

戦略とマーケティングは多層的な概念であり、適切に分けなければ「何を議論すべきか」が曖昧になります。

(3) 実務の混乱

現場では、「マーケティング戦略」と称して、実際には施策レベル(キャンペーンやプロモーション)の議論が行われることが多く、戦略的な意思決定にまで至らないケースがあります。


3. 解決策:議論の階層を明確にする

(1) 階層を明示する

議論を始める前に、どのレベルの議論を行うかを明示します。例えば:

  1. 戦略全体の議論(総論):企業全体の方向性や目標設定を扱う。
  2. マーケティング戦略の議論(各論に近い総論):マーケティング活動を通じて戦略目標をどう実現するかを計画する。
  3. 施策レベルの議論(完全な各論):広告、キャンペーン、販売促進など具体的な実行計画。

(2) 用語を再定義する

「マーケティング戦略」という言葉自体を、あらかじめ議論の対象として明確に定義します。たとえば:

  • 「ここで言うマーケティング戦略は、戦略全体の中でのマーケティング活動の方向性を指します」
  • あるいは、「マーケティング戦略という言葉は使わず、マーケティング施策と戦略を明確に分けて議論します」とする。

(3) 総論から議論を始める

総論を固めた後に、各論に進むプロセスを徹底します。

  1. まず「何を目指すのか」(戦略の目的)を明確にする。
  2. 次に「どのように実現するか」(マーケティングや他の部門の役割)を詳細化する。

4. 具体例:総論と各論の分離

悪い例(混在した議論)

  • 「我々のマーケティング戦略は、SNS広告を強化し、若年層の認知を拡大することです。」
    この発言は、戦略全体の目標(何を目指すのか)と具体的な施策(どう実行するか)が混ざっています。

良い例(階層を分けた議論)

  1. 総論:「我々の戦略目標は、特定市場でのシェアを拡大し、競争優位を確立することです。」
  2. 各論:「この目標を達成するために、マーケティング部門はSNS広告を活用し、若年層への認知を拡大する役割を担います。」

5. まとめ

「マーケティング戦略」という言葉を不用意に使うことは、総論と各論を混在させるリスクを招きます。そのため、議論の前提として、総論と各論を明確に分け、どのレイヤーで議論を進めるのかを共有することが不可欠です。言葉そのものに曖昧さがある場合、その場ごとに定義を共有し、文脈を明確にする努力が重要だと言えます。

マニュアルの目的は、複数の人やチームが関わる業務において、サービスの一貫性や品質を確保することです。しかし、ルールを守ること自体が目的となり、本来の意図を見失うリスクについては常に議論が続いています。

一方で、スキルレベルが異なる多くの従業員全員がマニュアルの本質的な意図を完全に理解することは現実的に難しいため、マニュアル通りに行動することで一定のレベルを維持することこそがマニュアルの本来の目的であるはずです。つまり、マニュアルを遵守することで容易に平均以上の行動が可能になる設計であるべきなのに、「マニュアル通りにやっていてはダメだ」という指摘は大きな矛盾を含んでいます。

従業員からすれば「言われた通りにやりなさい」と言われ、その通りにやったのに、「言われたことだけをやっていてはダメ」と言われている状態です。それでは釈然としないでしょう。

そのため、マニュアルで対応可能な範囲を、作成側が十分に検討し考慮する必要があります。効果的に活用するためには、まずマニュアルの適用範囲を明確に定義し、どの業務や場面で活用できるかを利用者に分かりやすく伝えることが重要です。また、マニュアルは「守るべきルール」ではなく、業務目標を達成するためのガイドであることを従業員に理解させ、その意図や目的を共有する必要があります。

さらに、想定外の状況や例外的な事例に対応できるよう、柔軟性を持たせた設計も求められます。具体的には、基本的なフローを提示するとともに、例外対応の指針や裁量範囲を明示することが含まれます。また、現場での実際の使用状況を把握するためにフィードバックループを構築し、定期的に内容を見直し、更新することが不可欠です。

加えて、マニュアルだけではカバーしきれないスキルや判断基準については、適切なトレーニングを提供し、従業員がより効果的にマニュアルを活用できるよう支援する必要があります。最終的に、環境や業務の変化に応じて、マニュアルの適用範囲や内容を定期的に更新することで、その実効性を維持できます。

これらを徹底することで、マニュアルは単なる指示書にとどまらず、業務の質を向上させる強力なツールとして機能するのです。

例えばリッツ・カールトンでは従業員がゲストに最高のサービスを提供するためのガイドライン(”Gold Standards”)を持っていますが、これを単なるルールとしてではなく、従業員の行動をサポートするための哲学や価値観の共有に重点を置いています。

トヨタ自動車では作業マニュアルはありますが、現場の従業員が日々の業務の中で「より良い方法」を提案し、それが即座にマニュアルに反映される仕組みが構築されています。

スターバックスでは、基本的なマニュアルがあるものの、バリスタ(従業員)には顧客との会話や個別対応に柔軟性が求められています。「顧客に特別な体験を提供する」という企業理念が従業員に浸透しており、マニュアル以上の対応ができる環境が構築されています。

これらの企業に共通するのは、マニュアルを基盤としながらも、従業員に柔軟な裁量を与え、企業の目的や価値観をしっかりと共有していることです。これにより、標準的なサービス水準を維持しながら、従業員が自主的に行動し、付加価値の高いサービスを提供できる仕組みが実現されています。

営業担当者のパフォーマンスを評価する際、「売上高」と「シェア値の向上」のどちらを指標にするべきか、悩むことはありませんか?評価方法を適切に選ぶことは、担当者の成果を正しく測定し、戦略的な意思決定につなげるために非常に重要です。では、どちらの指標が有効なのかを市場環境や目的に応じて考えてみましょう。


売上高で評価する場合のポイント

売上高は、もっともシンプルかつ分かりやすい指標です。会社の収益に直接結びつくため、短期的な成果を測るには適しています。しかし、市場が拡大している局面では、たとえ営業担当者が努力をしていなくても売上が伸びる可能性があります。逆に、市場が縮小している場合、営業努力が売上に反映されにくいこともあります。このように、売上高だけでは担当者の実力を完全には評価できない場合があるのです。


シェア値で評価する場合のポイント

一方、シェア値は競合との相対的な優位性を測る指標です。特に市場全体が縮小している場合でも、シェア値が向上していれば、担当者の成果を公平に評価できます。また、数理モデルを用いて、戦略的なリソース配分や競争力の向上を定量的に分析しやすいのも特徴です。例えば、シェア順位やシェアギャップを活用すれば、競争戦略の有効性を数値化できます。

ただし、シェアデータを正確に取得するのが難しい場合や、短期的な成果を重視したい場合には不向きな面もあります。


数理モデルの視点から見た有効性

  • 市場が拡大している場合:売上高の変化が市場全体の成長に引っ張られるため、シェア値を使った評価のほうが担当者の実力を反映しやすくなる。
  • 市場が縮小している場合:売上高では努力が見えにくくなるため、シェア値が優れた評価指標となる。特に、縮小市場ではシェアの変動が競争力の直接的な指標となるため、Lanchesterの法則やゲーム理論を応用したシェア分析が有効。

結論:状況に応じた指標の選択を

短期的な収益への貢献度を測るには売上高、中長期的な競争優位性を検証するにはシェア値が効果的です。市場環境や評価の目的に応じて、これらを組み合わせた評価指標を設けることで、営業担当者のパフォーマンスをより適切に測定することができるでしょう。


このように、評価指標の選び方ひとつで、営業担当者の成果の見え方が大きく変わります。ぜひ、自社の市場環境や目的に合った指標を活用してみてください!