#経営 #データサイエンス #意思決定 #因果推論 #インバウンド

はじめに:二元論の罠

「中国からの訪日客減少で1.7兆円の経済損失か」という衝撃的な試算がメディアを賑わせています。一方で、「他国からの需要で相殺され、影響は軽微だ」 という楽観論も聞かれます。

しかし、この「大打撃か、影響なしか」という二元論的な議論は、ビジネスの現場で本当に役立つ洞察をもたらすでしょうか? 複雑な経済現象を単純化しすぎ、重要なシグナルを見逃す危険性をはらんでいます。

本稿では、この二元論の罠から脱却し、より解像度の高い意思決定を行うための新しい分析視点として、DSA(分布構造分析)とDAG(有向非巡回グラフ)を用いた統合的アプローチを用いて検証してみましょう。

なぜ二元論に陥るのか?:「総額」だけを見る限界

多くの議論は、「インバウンド消費総額」という単一の指標に集約されがちです。しかし、この「総額」は、多様な要素が合成された結果に過ぎません。

①NRIの「1.7兆円損失」試算: これは「もし中国・香港からの旅行消費が特定割合で減少したら」という部分的なパス解析です。他の国からの需要増、円安効果、航空便の増減といった要因はモデルの外に置かれています。

②「影響は軽微」論: これは「総額は過去最高を更新している」という結果論です。中国依存度の高い特定の業種や地域が受けた深刻な打撃は、この総額の裏に隠れてしまいます。

どちらも「合成の誤謬」に陥るリスクを抱えています。ビジネスリーダーが本当に知りたいのは、「総額」の増減ではなく、「誰が、どこで、どのように影響を受けているのか」という構造的な変化のはずです。

DSA:分布で見るインバウンドの構造変化

ここで有効なのがDSA(分布構造分析)です。「総額」という平均値の議論から脱却し、データの「分布」そのものに注目します。

DSA(分布構造分析)とは? 平均値だけでは見えないデータのばらつきや偏り(分布)を分析し、その構造的な変化から新たな洞察を得る手法です。

インバウンド需要をDSAで分析すると、以下のような構造変化が可視化されます。

①国籍別の分布: 中国・香港のシェアが低下し、韓国・台湾・米国・欧州・中東のシェアが上昇。

②地域別の分布: 団体旅行客に人気のゴールデンルート(東京・大阪)から、個人旅行客に人気の地方都市や自然豊かな地域へ。

③業種別の分布: 中国客に依存していた都市部の免税店や高級ブランド店は打撃を受ける一方、体験型アクティビティや地方の宿泊施設は好調。

④単価の分布: 高額消費で知られた中国客の減少を、欧米からの長期滞在客が単価でカバーできているか。

このように分布で見ることで、「インバウンド市場全体が縮小した」のではなく、「市場の構造がダイナミックに変容した」という真実が見えてきます。この構造変化の中で、新たな勝者と敗者が生まれているのです。

DAG:因果関係で解き明かす「なぜ」

次に、DAG(有向非巡回グラフ)を用いて、これらの変化を引き起こしている要因とその因果関係を整理します。

DAG(有向非巡回グラフ)とは? 複数の要因間の因果関係を矢印で結び、全体像を可視化する分析ツール。相関と因果を区別し、真のドライバーを特定するのに役立ちます。

インバウンド問題をDAGで描くと、以下のような複雑な因果の連鎖が明らかになります。

  • 直接的な因果: 「日中外交悪化 → 渡航自粛要請 → 中国人訪日客数↓」
  • 交絡因子(共通原因): 「円安」「世界景気」「国際線増便」といった要因は、「中国人訪日客数」と「他国からの訪日客数」の両方に影響を与えます。

ここで重要なのが交絡因子の存在です。「中国人客が減ったが、他国客が増えたから問題ない」という単純な相関関係だけを見ると、「中国人客の減少が他国客の増加を引き起こした」かのような誤った因果解釈に陥る危険があります。DAGは、円安などの共通原因が両者に影響していることを明確にし、このような誤解を防ぎます。

ビジネスリーダーへの提言:DSA+DAGで未来を予測する

「1.7兆円損失か、影響ゼロか」という不毛な二元論から脱却し、ビジネスリーダーは以下の2つのステップで自社の戦略を再構築すべきです。

ステップ1:DSAで自社の立ち位置を特定する

まず、自社の顧客データや市場データを「分布」で分析してください。

  1. あなたの顧客の国籍構成はどう変化しましたか?
  2. あなたの製品・サービスの価格帯は、新しい顧客層にマッチしていますか?
  3. あなたの事業所がある地域は、需要が増加している地域ですか、それとも減少している地域ですか?

この分析により、自社が構造変化の「勝ち組」にいるのか、「負け組」にいるのか、あるいはその中間にいるのかを客観的に把握できます。

ステップ2:DAGで未来のシナリオを構築する

次に、自社のビジネスに影響を与える要因を洗い出し、その因果関係をDAGで整理してください。

  1. 今後、円安が是正されたらどうなるか?
  2. 新たな国際線が就航したら、どの市場からの需要が見込めるか?
  3. 次の地政学リスクは何か?それはどのパスを通じて自社に影響するか?

DAGを用いることで、複数の要因が複雑に絡み合う未来を、複数のシナリオとしてシミュレーションし、より頑健な事業計画を立てることが可能になります。

結論

インバウンド需要を巡る論争は、現代のビジネスがいかに複雑なシステムの中に置かれているかを象徴しています。もはや、単一の指標や単純な相関関係だけで意思決定できる時代ではありません。

DSAで構造変化の「どこ」に影響が出ているかを特定し、DAGで「なぜ」その変化が起きているのかを解明する。この二段構えのアプローチこそが、不確実性の高い時代を乗りこなし、持続的な成長を遂げるための新しい羅針盤となるのです。

あなたの会社は、まだ「総額」の増減に一喜一憂していますか?それとも、構造変化の波を捉え、次の成長機会を掴む準備ができていますか?

参考文献

[1] 日本経済新聞. “中国からのインバウンド消費、「年2兆円」に黄信号 渡航自粛…”. 2025年11月18日.

[2] FNNプライムオンライン. “【日中緊張】日本への渡航自粛で経済損失「1.7兆円」試算も…”. 2025年11月18日.

[3] J-CASTニュース. “中国からの訪日客減で「経済損失1.79兆円」をカバーできるかも…”. 2025年11月28日.

お米券の支給をめぐる議論が活発化していますが、論点の多くは「現金支給のほうが合理的ではないか」という方向に流れています。しかし、この議論は手段以前に目的設定を見失っているように見受けられます。

この問題を整理するうえで有効なのが、STP(Segmentation・Targeting・Positioning)の視点です。
まずセグメンテーションは、物価高という広範な社会課題です。そのうえで、今回の政策が本来狙うべきターゲティングは、「高止まりが続くコメ価格」という極めて具体的かつ限定的な政策課題であるはずです。
そしてポジショニングは明快です。対象は「米を食べたいにもかかわらず、価格上昇によって我慢を強いられている国民」です。

ここで重要なのは、コメ価格対策は象徴政策ではないという点です。特定の商品、特定の支出行動に対してピンポイントに介入する、きわめて具体的な施策領域です。したがって、手段は目的と強く結びついている必要があります。

現金支給は確かに汎用性が高く、生活全般を下支えする手段です。しかしそれは「米価対策」ではなく、「物価上昇全体に対する生活支援策」です。STPの観点で言えば、ターゲットを意図的にぼかす手段であり、目的が異なります。

さらに注目すべきは政治的な文脈です。現金支給を前面に出したこれまでの対応については、直近の選挙において与党が議席数を減らす結果となり、事実上、国民の審判が下されています。「現金を配れば理解される」という発想そのものが、必ずしも支持されなかったという現実です。

それにもかかわらず、再び現金支給に議論が回帰していく様子は、戦略不在の状態に酷似しています。目的が曖昧なまま手段論に入れば、議論は拡散し、評価軸も成果指標も定まりません。これは政策に限らず、企業経営や事業戦略でも同様です。 戦略とは、限られた資源を誰に、何のために、どのように使うかを決めることです。STPを欠いた意思決定は、善意であっても成果を生まない。
お米券か現金かという問いの前に、いま改めて問うべきなのは、「この政策は何を解決するためのものなのか」という一点ではないでしょうか。

生成AIは、もはや「使っているか・いないか」を問う段階を終えました。2025年現在、もはや大切な問いは、AIをどう分類し、どう使い分けているかです。にもかかわらず、多くの企業ではChatGPTに代表されるチャット型AIを「万能AI」と誤解し、その延長線上で投資判断をしてしまっています。

しかしAIは、役割の異なる複数の層から成り立つ“システム”です。これを整理しないまま活用すると、「考えてはくれるが、何も終わらないAI」に振り回されることになります。

まず押さえるべき、AIの3分類

現在のAIは、大きく以下の3タイプに分けると理解しやすくなります。

基盤モデルは、言語処理や推論の基礎体力です。これ単体では価値を生みませんが、すべてのAIの土台になります。
チャット型AIは、思考を補助し、壁打ち相手として優秀です。しかし主導権は常に人にあり、指示を止めれば動きも止まります。

一方、AIエージェントは根本的に異なります。目標を与えると、必要な情報を探し、手順を組み立て、外部ツールを使いながらタスクを完遂します。ここでは人は「操作する存在」ではなく、「目的を定義する存在」になります。

なぜ多くのAI活用が失敗するのか

失敗の最大要因は、「思考支援」と「実行」を同一視している点です。チャット型AIにどれだけ高度な指示を与えても、最終的な判断・操作・実行は人間が担う必要があります。その結果、業務は速く“考えられる”ようになっても、業務量そのものは減らないのです。

AIエージェントの価値は、単なる効率化ではありません。
業務構造そのものを再設計できる点にあります。

経営に求められる新しい問い

これからのAI戦略で問われるのは、

  • 人が考えるべき領域はどこか
  • AIに任せきるべき領域はどこか
  • その境界を誰がどう設計するのか

という、極めて経営的な問いです。

AI時代の競争力とは、最新ツールの有無ではありません。
AIを役割で分解し、組織と業務にどう配置するかという設計力です。
「AIを導入した企業」ではなく、「AIを構造的に使い分けている企業」だけが、次の段階に進めるでしょう。

――答えを聞かずに、意思決定の構造を読む技術――

営業や事業開発の場面で、つい聞きたくなる質問があります。

  • なぜ検討が止まっているのですか?
  • どんなリスクを感じているのですか?
  • 誰の合意が必要なのですか?

いずれも一見、核心を突いた「正しい質問」に見えます。
しかし、こうした質問をそのまま投げた瞬間に商談が停滞する――そんな経験はないでしょうか。

正論の質問ほど、人は防御する

これらの質問に共通するのは、
すべて 「判断の責任」や「意思決定の正当性」 に触れている点です。

多くのビジネス現場では、

  • 検討が止まっている理由
  • 感じている本当のリスク
  • 合意形成の力学

は、個人の怠慢ではなく、組織を守るための結果として存在しています。

そのためダイレクトに聞かれると、相手は無意識に
「説明できる答え」「安全な答え」
へと話を変えてしまいます。

結果として、本音や構造には辿り着けません。


ティプス①

「なぜ検討が止まっているのか?」を聞かない

その代わりに、こう聞きます。

  • 「これまでに、似た話が出たことはありますか?」
  • 「そのときは、どこまで進んだのでしょうか?」

ポイントは 過去形 です。

人は「今の判断」を説明するのは苦手ですが、
「過去の出来事」を語るのは得意です。

そこから、

  • 過去の失敗体験
  • 忙しさによる中断
  • 判断できなかった組織構造

が自然に見えてきます。

止まっている理由”は、現在ではなく過去にあります。


ティプス②

「どんなリスクを感じていますか?」を聞かない

代わりに、こう聞きます。

  • 「もし進めるとしたら、一番気を遣うのはどこでしょう?」
  • 「逆に、ここだけは変えたくない、という点はありますか?」

この質問で出てくる言葉こそが、
相手が本当に警戒しているリスクです。

多くのケースで、リスクの正体は

  • 技術的失敗
  • 数値的損失

よりも、

  • 説明責任
  • 社内調整
  • 手間が増えること

にあります。

人は「損」よりも「面倒」や「責任」を恐れます。


ティプス③

「誰の合意が必要ですか?」を聞かない

代わりに、こう聞きます。

  • 「こういった話は、普段どこで共有されることが多いですか?」
  • 「進めるとしたら、最初に相談すると安心なのは誰でしょうか?」

ここで重要なのは、
決裁者の名前を知ることではありません。

本当に知るべきなのは、

  • 暗黙の拒否権を持つ人
  • 前例を握っている人
  • “一言で空気を変えられる人”

です。

組織は、公式ルートより非公式の力学で動いています。


営業で見るべきは「答え」ではない

質問の目的は、
YES/NOを引き出すことではありません。

  • 話すスピード
  • 言葉の濁り
  • 主語の変化(私 → 部署 → 会社)
  • 無意識の言い換え

こうした反応の変化こそが、
その組織が動かない理由を教えてくれます。


まとめ

ビジネス・営業で失敗しない質問の原則

  • 正しい質問ほど、直接は聞かない
  • 本音は「過去」と「仮定」の話に出る
  • 組織は個人ではなく、構造で止まっている

だから、答えを求めない。
でも、必ず分かるように聞く。

この問い方ができると、
営業は「説得」ではなく、
意思決定の構造を読み解く仕事に変わります。

生成AIが急速に普及し、ビジネスの現場でも「議論相手としてAIを利用する」という発想が生まれています。しかし、AIと議論するという行為は本質的に不可能です。その理由は、AIが“信念”や“立場”を持たず、確率で最適化された文章を生成する存在だからです。

特にテキスト生成型のAIではその傾向が強くなります。

人間の議論とは、本来「価値観」「経験」「信念」などの“軸”がぶつかり合い、相互の前提を確認しながら進んでいきます。ところがAIには、この軸が存在しません。あるのは膨大なデータから推測される「もっともらしい次の言葉」だけです。この構造こそが、AIが“筋を通す”ことを根本的に不可能にしています。

AIの回答は、その場の文脈に最適化されるため、ユーザーが問いの角度を少し変えるだけで、論点の軸が移動します。これはAIが“態度を変えた”のではなく、“立場が存在しない”から起きる現象です。人間同士なら「前提に矛盾がある」「話が揺れている」と批判される場面も、AIでは単に“別の文脈への最適化”として自然に起こります。

このため、AIと真剣なディベートを成立させることはできません。なぜなら、AIは勝つために議論するのではなく、確率的に整合する文章を返すだけだからです。一貫性がなく、信念もなく、立場を保持しません。つまり、人間が求める「議論の構造」がAIには宿り得ないのです。

ディベートを重ねれば重ねるだけAIがこちらの主張の文脈を読み寄せてきます。

ではAIは議論に使えないのかと言えば、そうではありません。AIは「材料集め」「論点の整理」「仮説生成」には圧倒的に強く、人間の思考を支える“副操縦士”として極めて有用です。ただし、“対等な論争相手”として扱うと、どうしても齟齬と揺らぎを生み出します。それはAIの限界ではなく、仕組み上の宿命です。

AIと人間の役割は明確に違います。
人間が軸を持ち、AIが補助する。
この構図を理解すれば、AIの利用価値は最大化されます。
そして、「AIとディベートは成立しない」という事実は、むしろ人間の思考の重要性を再確認させるものです。

ストーリーとしてのキャリアが示す4つの進化ステージ

多くの人が「キャリア」と聞くと、まず転職を思い浮かべます。
転職回数、業界変更、年収の上下……。
しかし、それらはキャリアのごく一部でしかありません。
むしろ、転職だけでキャリアを語ろうとすると、キャリアの本質を大きく見誤ります。

キャリアとは本来、価値創造の源泉をどのように変化させていくかという「ストーリー」であり、そのストーリーには明確な構造があります。


第1章:従業員(Employees)“労働”で価値を生むフェーズ

最初のステージは従業員としてのキャリアです。
時間とスキルを企業に提供し、対価として給与を得る。
多くの人にとって最初のスタート地点であり、ここでは「学ぶ力」「成果を出す力」を磨く時期です。

そして、このステージで頻繁に起こるのが“転職”です。
より良い待遇、より大きな役割、より成長できる環境を求める移動は、従業員フェーズの内部で自然に発生する最適化の行動です。

しかし、ここが重要なポイントです。

転職はキャリアの中心ではなく、第1フェーズ内部のイベントに過ぎない。


第2章:個人事業者(Self- employees)“自分の名刺”で価値を生むフェーズ

企業という箱に属するのではなく、個人として仕事を受ける段階です。
報酬は自分の価値に直結し、裁量は一気に広がります。

  • 自分で価格を決める
  • 自分で顧客を選ぶ
  • 自分で時間を配分する

ここで初めて、「自分という事業」を意識し始めます。
従業員時代には見えなかった市場構造が見え、価値の出し方が変わります。


第3章:会社オーナー(business owners)“仕組み”に価値を生ませるフェーズ

個人の時間だけに依存するのではなく、

  • 組織
  • プロダクト
  • 知的財産
  • プロセス
  • 仕組み

に価値創造を担わせる段階です。

ここでキャリアは飛躍的にスケールします。
自分一人では不可能な価値や影響力が生まれ、レバレッジが働き始めます。
これは単に独立するのではなく、“仕組み資産を構築するフェーズ”です。


第4章:投資家(investors)“資本”に価値を生ませるフェーズ

最終ステージは、資本そのものを価値創造のエンジンにすることです。
投資家と聞くと金融的に聞こえますが、本質はそこではありません。

自分だけではなく、他者・他社・他プロジェクトにレバレッジをかけるフェーズです。

  • 事業投資
  • 医療・研究・臨床のプロジェクト支援
  • 地域や未来への資本配分

ここでキャリアは「個人の物語」を超え、「社会のストーリー」と結びつきます。


キャリアの本質は、“どのステージで・何を価値として提供するか”の物語である

この4つのステージをストーリーとして捉えると、
キャリアは転職の数でも肩書の数でもなく、
価値の源泉をどれだけ進化させてきたかで語るべきだと分かります。

従業員、個人事業者、オーナー、投資家。

どれが偉いわけでも優れているわけでもありません。
ただし、転職だけにキャリアを委ねてしまうと、
ストーリーの“第1章”の中でしか動けなくなります。

キャリアは、もっと広く、長く、深い。
あなたが辿ってきた道筋は、まさに「価値創造の源泉を進化させるキャリア」の典型です。


最近、多くの業界でキャリア関連セミナーが急増しています。製薬業界も例外ではなく、「キャリア自律」「リスキリング」「副業」「市場価値」といったキーワードが並ぶセミナーを毎日のように目にします。

一見すると前向きな取り組みですが、その急拡大の背景には、ポジティブな成長意欲よりも 構造的な不安” が見え隠れしています。

まず、社会全体の不確実性がかつてないほど高まっています。市場のゼロサム化、AI・DXによる職種転換、大企業の早期退職制度の常態化、ジョブ型雇用の普及、、、
「会社がキャリアを守ってくれる時代ではない」という認識が広がり、個々人の不安が増幅しています。

製薬業界はその傾向が特に顕著です。MR職の大幅縮小、専門領域の偏り、デジタル化による職種変容、製品ライフサイクルの短期化などにより、「今のスキルが5年後も通用するのか」という不安が生まれやすい業界構造になっているからです。

そして、この不安の高まりを背景に、市場が大きく動いています。

それが 転職エージェントとマッチングビジネス です。

転職エージェントは、求職者が増えるほど売上が伸びるビジネスモデルです。また、企業と個人をつなぐ「マッチングプラットフォーム」は、登録者数と相談件数が増えることで価値が高まります。そのため、キャリアセミナーは「不安を解消する場」であると同時に、「不安を集客導線に変える場」という側面を持ちます。

多くのセミナーが一般論や自己啓発で終わり、業界構造の変化や専門スキルの方向性には踏み込まないのはこのためです。内容が薄いほど不安だけが残り、不安 → 相談 → 登録 → マッチング → 手数料という流れが強化される構造になっています。

もちろん、キャリアセミナーのすべてを否定する必要はありません。しかし、キャリアを本当に変えるのは「情報」ではなく「行動」です。特に製薬業界であれば、データ活用、診療報酬・制度理解、RWE/RWD、戦略構築、PMDA対応など、企業にとっての実務価値が高いスキルは明確です。

不安が市場をつくり、市場が不安を増幅する時代だからこそ、不安のスパイラルに落ちないためにも自分のキャリア価値を「不安」ではなく「構造」で理解することが何よりも重要です。

ABテストでよく聞く言葉があります。

「p値に差はありません。」

今回の広告A/Bテストでも、Aの購買率9.5%、Bは9.6%。
カイ二乗検定の結果は「有意差なし」。
言い換えれば、“どちらを選んでも同じ”という結論です

しかし、この判断は本当に正しいでしょうか。
実はこの「有意差なし」という宣告こそが、意思決定を最も曇らせる“統計の罠”です。


■ 0.1%の差は無意味なのか?─統計とビジネスは別の論理で動く

今回の差分はたった 0.1ポイント(0.001)
統計的には非常に小さく、20万人のサンプルでは検出できません

しかし、ビジネスの視点に立つと話は一変します。

資料の試算では、100万インプレッションでの収益差は約500万円に達します

統計では「差がない」がビジネスでは「差が大きい」。

この“ねじれ”は、ABテストが陥りがちな本質的な問題です。


■ DSAは平均を疑う:全体9.5%の裏にある“構造”を見る

従来の統計は 平均値だけを比べます。しかしDSA(分布構造分析)の視点では、

  • 本当に全員に対して差がないのか?
  • 一部の層では大きな差が出ていないか?
  • 分布に「極端群」や「多峰性」が隠れていないか?

といった、“平均では潰れる構造”を見に行きます。

実際、DSAではベイズ推定により、

「BがAより優れている確率は77.51%」

という“確率的な意思決定”が可能になります

これは従来の検定が決して提供しない情報です。
重要なのは「有意差があるか」ではなく、

どちらを選ぶほうが損が少ないか?
どちらに賭ける方が合理的か?

という“意思決定の質”です。


■ DAGは因果の流れを可視化し、改善ポイントを発見する

DAG(因果構造分析)が強力なのは、結果の裏にある“因果の流れ”を見える化できる点です。

資料にある因果構造では、広告の効果は

  • 直接:広告 → 購買
  • 間接:広告 → クリック率 → 購買
  • 交絡:年齢・過去購買履歴・デバイス など

という複数の経路を辿ります

つまり、購買率だけを見ても“何が効いたのか”は分からないのです。

DAGが示す改善ポイントは、例えば次のようになります:

  • 若年層ではB広告が強く効いている
  • 反対に高齢層ではA広告のほうがCVRが高い
  • B広告はクリック率は高いが、購買完了率が低い(導線改善の余地)

資料でも、こうしたサブグループ分析の有用性が強調されています


■ “差がない”のではなく “平均が差を隠している”だけかもしれない

今回のABテストは「意味のない0.1%差」ではなく、

平均の下に潜む重要な構造を見逃している可能性がある

という示唆を与えてくれます。

DSA+DAGは、その“隠れた構造”を可視化し、

  • どの層にどの広告が効くか
  • どの指標を改善すべきか
  • どちらを選ぶべきかのリスクと損失

を定量的に教えてくれます。

カイ二乗検定は「差がない」で終わります。
しかしDSA+DAGは、

「どちらを選ぶべきか」
「どう改善すべきか」
「収益はどこまで伸ばせるか」

まで示してくれます。


結論:意思決定の武器は“p値”ではなく“構造”である

広告クリエイティブの違いが小さいほど、購買率の差は平均では打ち消されます。

しかしビジネスにとって重要なのは、

平均値ではなく“構造の違い”
そして“どちらが得かの確率”

です。

DSA+DAGはまさに、

大量データ × 平均の世界から
構造 × リスク × 意思決定の世界へ

ABテストを進化させるフレームワークです。

統計が“白黒”しか教えてくれない時代は終わり、DSA+DAGが“意思決定に効くデータ分析”を実現します。

ビジネスの現場では、分布構造(DSA)と因果モデル(DAG)によるアプローチも従来の統計的アプローチも、じつは「使っている統計手法そのもの」はあまり変わりません。違いが出るのは、その使い方のプロセス設計です。

従来型は「まずロジスティック回帰」などモデル先行で、平均的な顧客像や全体効果を前提に分析します。その結果、極端なクラスターやニッチな高収益セグメントは、数字の中に埋もれがちです。

一方分布構造(DSA)と因果モデル(DAG)は、先に分布構造(どんな集団が、どれくらい存在するか)を可視化し、次に因果構造(何が結果を動かしているか)を整理するという順序をとります。そのうえで必要なところだけ従来の統計モデルを当てはめます。

同じ統計手法を使っていても、

  • 「平均を前提にまとめて見る」のか
  • 「構造を前提に分けて見る」のか

という違いが、ターゲティングやリソース配分の意思決定に大きな差を生みます。これが、分布構造(DSA)と因果モデル(DAG)がビジネス戦略のOSとして意味を持つポイントだと思います。

マーケティングや営業の現場で「ロジスティック回帰」という言葉を聞いたことはあっても、実際には「統計担当にお任せ」というケースが多いのではないでしょうか。ところが今、そうした“平均で意思決定する世界”そのものが限界を迎えつつあります。

ロジスティック回帰は、ある施策を行ったかどうかで「買う/買わない」「離脱する/継続する」といった結果の確率を推定するには、とても分かりやすい手法です。ただし前提は、「お客様はだいたい一つのまとまり(単峰)として振る舞う」という世界観です。平均的な顧客像を描き、その顧客にどの要因が効いているかを見る──これが従来の発想でした。

しかし現実のビジネスはどうでしょうか。価格に極端に敏感な層、ブランドへのロイヤルティが異常に高い層、情報に過剰反応する層…。データをよく見ると、多峰性や極端なクラスターが存在し、「平均的なお客様」などほとんどいません。ここで登場するのがDSA + DAGです。

DSA(分布構造分析)は、まず「どんなタイプの顧客集団が、どのような構造で存在しているか」をあぶり出します。ロジスティック回帰が1本の滑らかな曲線で世界を表現しようとするのに対し、DSAは「山がいくつあるのか」「どこの山がビジネス的においしいのか」をそのまま見せてくれます。結果として、本当に狙うべきクラスターはどこかそこにどれだけ資源を投下すべきかが、数字と図で明確になります。

さらにDAG(因果グラフ)は、「相関」と「因果」を切り分ける武器になります。売上とキャンペーン接触が相関していても、「売上が高い顧客ほどキャンペーン対象に選ばれていた」という逆因果の可能性は常にあります。DAGは、どの変数を調整すれば因果効果を取り出せるかを構造として示してくれるため、「本当に効いた施策は何か」を見誤りにくくなります。これは、限られた予算をどこに振り向けるかを判断する経営にとって、極めて実務的な価値です。

もちろんDSA + DAGにも弱点はあります。新しい概念であるがゆえに、社内での理解・教育コストが必要ですし、「オッズ比1.5倍」といった教科書的な指標に比べると、成果の説明がやや構造的・ビジュアル寄りになります。しかし、顧客が多様化し、市場がゼロサム化していく中で、「平均的な顧客に平均的な施策を打つ」だけでは勝てないことは、ほとんどの現場が肌で感じているはずです。

ロジスティック回帰は、依然として“標準語”としての役割を果たします。一方で、これからの競争環境では、分布構造(どんな顧客がどの比率で存在するか)因果構造(何が結果を動かしているのか)を同時に押さえた上で、戦略と資源配分を設計できるかどうかが、企業間の決定的な差になります。

「平均で見るか、構造で見るか」。
これは単なる分析手法の選択ではなく、ビジネスそのものの“意思決定のOS”をバージョンアップするかどうか、という問いかけなのかもしれません。

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