① 前提:人口減少=市場縮小、という常識
「人口が減れば、市場も縮小する」。この考え方は、長く日本の経済やビジネスの常識とされてきました。確かに、マーケットは「人数 × 消費額」で成り立つ以上、少子高齢化によって人口が減少すれば、自然と経済のパイも小さくなる。そう考えるのは自然なことです。
実際、日本の総人口は2013年から2023年の10年間で約2.2%減少しています。これだけ見ると、「市場も同じように縮んでいる」と考えられます。
② 可能性:人口が減っても市場は拡大できる
実際に、データを詳細に見てみると、必ずしもそうとは言えないようです。市場規模の年次変化率を見てみると、2015年の1.22%から2023年の-0.05%まで、増減はあるものの大きな回復局面も存在しています。特に2022年は2.93%という高い成長率を記録しています。
この10年間で、市場規模は約8.5%拡大しています。つまり、人口が減っているにもかかわらず、経済全体のボリュームは増えているのです。この背景には、一人当たりの所得の上昇があります。労働生産性の向上や技術革新によって、個人が生み出す価値が高まることで、人口減少の影響を打ち消す結果になっています。
このことは、人口が減っても経済成長が可能であるという「反証」にもなります。成長のカギは「人数」ではなく、「1人あたりの価値創出」にあるということです。
③ 実態:拡大した市場を手にしたのは誰か
とはいえ、そこで安心するのは早いかもしれません。詳細に見ていくと、この拡大した市場の果実を得ているのは、主に一部の大企業に限られているのが実態です。
たとえば、ITや製薬、小売、金融などの分野では、データやブランド、資本力を持つ大企業が“選ばれる側”として市場を席巻しています。一方で、中小企業や地域の企業には、売上や利益が頭打ち、あるいは減少傾向にあるのが現実です。
つまり、「人口が減っても市場は拡大できる」というのは、正確には「競争力のある企業にとっては拡大できる」という意味でもあります。その構造は、格差や集中をさらに進める可能性もはらんでいます。
④ 戦略提言:勝ち残るには「弱者の戦略」が必要
だからこそ重要なのは、「自社がその拡大側に入れるかどうか」を見極め、戦略的に動くことです。ただし、大企業と同じ土俵で戦えば、資本・人材・技術すべてにおいて分が悪いのは明らかです。
大企業に対して経営資源で劣る企業が勝ち残るためには、これまでのロールモデルとは異なる「弱者の戦略」が必要です。限られたリソースをどこに集中させるか。ゼロサムゲームに勝つことが成長の絶対条件です。
各年度の詳細分析
2015年(+1.22%): アベノミクス第一の矢(大胆な金融政策)の効果により、雇用情勢が改善し、賃金上昇が始まった年である。企業収益の改善が労働者への還元として現れ始めた。
2016年(+0.33%): 成長率は鈍化したものの、プラス成長を維持した。この年は、中国経済の減速、原油価格の下落等の外部要因により、企業の慎重姿勢が強まった。
2017年(+2.19%): 世界経済の回復により輸出が増加し、企業収益が大幅に改善した。働き方改革の議論が本格化し、労働環境の改善が進んだ。
2018年(+1.87%): 引き続き堅調な成長を記録したが、米中貿易摩擦の影響により先行き不透明感が高まった。人手不足の深刻化により、賃金上昇圧力が強まった。
2019年(-1.34%): 消費税率引き上げの影響により、個人消費が低迷した。また、米中貿易摩擦の激化により、輸出関連企業の業績が悪化した。
2020年(-1.05%): 新型コロナウイルス感染症の影響により、経済活動が大幅に制限された。ただし、雇用調整助成金等の政策効果により、雇用と所得の大幅な悪化は回避された。
2021年(+2.14%): ワクチン接種の進展と経済活動の正常化により、急速な回復を示した。デジタル化の進展により、新たな働き方が定着した。
2022年(+2.93%): 過去10年間で最高の成長率を記録した。インフレ圧力の高まりにより、企業の賃上げ機運が高まった。
2023年(-0.05%): 成長率はほぼゼロとなり、成長の踊り場に差し掛かった。物価上昇の影響により、実質的な購買力の伸びが鈍化した。
