マーケティング戦略という言葉をよく目にしますが、私の定義では、戦略はマーケティングの上位概念なのでマーケティング戦略という言葉にとても違和感があります。なのでマーケティング戦略をうたうセミナーは基本的に受講しません。

「戦略」と「マーケティング」の用語はしばしば曖昧に使用されがちで、その結果として誤解や混乱を招くことがあります。孫子の兵法における戦略の定義や、ビジネスフレームワークのSTP分析(Segmentation, Targeting, Positioning)を一例として挙げてみましょう。

戦略と戦術
戦略(Strategy): 長期的な計画やビジョンを指し、主に何を達成しようとしているのか、どのような大きな目標に向かって進むのかを定義します。戦略は主戦場を選定し、敵(競合)に対してどのように優位性を確立するかを考える過程です。STP分析は、市場をどのようにセグメント化し、どのターゲット市場を狙うか、そして市場内でどのようなポジショニングを取るかを決定するプロセスであり、戦略的な決定の一例です。

マーケティング(Marketing): 戦術(Tactics)の一部と考えることができます。戦略の枠組み内で、具体的にどのような手段やアクションを取るかを指します。マーケティング活動は、戦略が定めた目標に到達するための道筋を具体化するもので、製品のプロモーション、価格設定、配布チャネルの選定などが含まれます。

ビジネスコミュニケーションにおいて、用語の正しい定義と使い方を理解し、共有することは非常に重要です。これにより、チーム内や業界全体での認識のズレを防ぎ、効果的な戦略立案と実行を可能にします。特に「マーケティング戦略」という言葉を使う際には、それが戦略的な目標達成に貢献するマーケティングのアプローチを指すと明確にすることで、ミスリードを避けることができます。

戦略とマーケティング(戦術)の関係性を正しく理解し、適切な文脈でこれらの用語を使用することが、ビジネスの成功において極めて重要です。これは、計画の精度を高め、目標達成の道筋を明確にするために不可欠です。

今では5万人を下回る国内のMRの人数は2013年には6万5千人を超えていました。マーケティングの世界は、常に変化し、進化しています。かつてのシェアオブボイス(SOV)の時代から、デジタル技術の急速な進化に伴い、マーケティングの焦点は大きくシフトしました。

シェアオブボイスの時代
シェアオブボイスは、あるブランドが持つ市場内の声の割合を示す指標です。広告出稿量やメディア露出の度合いを量ることで、競合他社との相対的な市場支配度を把握しようとするアプローチです。この時代においては、市場における「声」の大きさ、つまり「量」が競争力の源泉とされていました。多くの企業が、広告の大量投下や大規模キャンペーンを通じて、消費者の意識に刻み込まれることを目指しました。

デジタル化とマーケティングの変化
しかし、インターネットとデジタルメディアの台頭は、このパラダイムを根本から変えました。今日のマーケティングでは、単に「量」を追求するだけでなく、「質」の高い接触が重視されています。デジタルツールとデータ分析の進化により、マーケターはターゲット顧客により適切に、そしてパーソナライズしてアプローチすることが可能になりました。この変化は、顧客一人ひとりとの関係を深め、より意味のある方法でエンゲージメントを高めることを可能にしました。

ビジネスモデルによる違い
この「量」と「質」の重要性は、ビジネスモデルによっても異なります。マスマーケティング戦略においては、広い範囲の顧客にリーチするために「量」が重視されます。一方で、1on1マーケティングやアカウントベースのマーケティングでは、「質」が中心となり、顧客個々のニーズに合わせたパーソナライズされたアプローチが求められます。

デジタル時代のマーケティングにおいては、単にシェアオブボイスを最大化することから、量と質の適切なバランスを見つけることへと焦点が移りました。しかし、予めターゲット顧客が明確な医薬品ビジネスでは、顧客の行動変容において、MQL(Marketing Qualified Lead)からSQL(Sales Qualified Lead)までのプロセスを営業担当者(MR)が担う伝統的な営業モデルです。

「戦力量に勝る者が勝つ」という競争市場の原則において、売上インパクトを最大化するには人的販売は不可欠です。大幅にMR数を削減する製薬企業がある中で、今後の企業業績にどのような影響が現れるでしょうか?

ビジネスの世界における顧客理解のプロセスは、従来の方法から脱却し、より洗練されたアプローチへと進化しています。かつては、年齢や性別、職業、収入といった基本的なデモグラフィック情報に基づいて顧客を分類することが一般的でした。しかし、このアプローチでは、顧客の実際のニーズや欲求を深く理解することは難しいという限界があります。

現代のビジネス環境では、顧客のニーズを中心に属性を分類することが重要です。これは、単にカテゴリー別に顧客を分けるのではなく、まず彼らの具体的な要求や問題点を特定し、その後でこれらのニーズを持つ特定の顧客群を見つけ出すというプロセスを意味します。この方法により、企業は製品やサービスをより適切に顧客に合わせることができることから、顧客満足度の向上やロイヤリティの強化につながります。

たとえば、健康食品を販売する企業があるとします。従来のデモグラフィックに基づくアプローチでは、特定の年齢層や性別に焦点を当てるかもしれません。しかし、ニーズベースのアプローチを採用すると、健康に対する意識が高く、質の高い食生活を求める人々をターゲットにすることができます。これにより、年齢や性別を超えた多様な顧客層にアプローチすることが可能になります。

このようなニーズ中心の属性分類は、企業が市場の機会をより効果的に識別し、競争優位性を確立するのに役立ちます。顧客のニーズを深く理解し、それに応じてサービスや製品を調整することで、顧客にとっての価値を最大化し、企業の成功に貢献することができるのです。

過去には多くの製薬企業が行っていたブロックバスター戦略は、近年では小さな市場や特定のニーズを満たす市場へと変化しています。その背景には、高額な開発コストや長い開発時間、そして高い不確実性、高い規制のハードルなどがあります。

これらの小さな市場や特定のニーズを満たす市場は、以前では製薬企業の主なターゲットではありませんでした。しかし、特定のニーズに応える治療薬の開発を促進するために、税制上の優遇措置や市場独占期間の延長などのインセンティブが提供されています。また、これらの市場においては、必要とされる患者数が少ないことから、臨床試験をより小規模で実施することが可能です。

これにより、開発試験の実施が容易になり、コストと時間を削減できることから、製薬企業は小さな市場や特定のニーズを満たす市場の治療薬開発において、リスクが低減され、投資対効果が向上します。

しかし、メリットがある一方で、特定のニーズを除き、これらの市場の中には治療ニーズが必ずしも顕在化していないものもあります。その場合には市場の醸成をしていく必要が生じます。

市場の醸成に効果的なのは競合他社の市場参入です。競争により市場浸透、拡大のスピードは一段と速くなります。

では両社で開拓した市場は仲良く分け合うことになるでしょうか?残念ながらそうではありません。最終的には一強型の競争市場、すなわち勝者と敗者が生まれます。

特に市場に自社の他に競合他社が1社のみの2者間競争の場合、その傾向はシビアです。なぜなら目の前の敵に全戦力を投入することになるため戦力量に勝る方が圧倒的に競争優位になるからです。

また一般的には後発参入が有利になることがあります。先発参入メーカーをリード獲得として利用し、SQLを人的営業で一気に刈り取る戦略が可能だからです。

認知症の治療薬とRSウイルス(呼吸器合胞性ウイルス)ワクチンの開発は、市場の醸成において挑戦に直面している領域の事例と言えるでしょう。これらの分野は、高い医療ニーズと科学的な課題の両方を抱えていますが、それぞれ独自の困難さがあります。

RSウイルスワクチンでは先行参入したGSKを後追いする形でファイザーが市場参入します。このことにより市場はどのように拡大するのか、また勝者となるのはどちらでしょうか?

両社の戦略に注目したいと思います。

1対1マーケティングにおいては、本社部門によるマーケティング適格リード(MQL)の生成と管理、及び営業部門によるセールス適格リード(SQL)への対応と進展の間のインタラクティブなクロストークが極めて重要です。

この両部門間の緊密な連携は、個々の顧客の具体的なニーズと期待に対して最も適したアプローチを設計し、実行する上で不可欠であり、個別最適化されたマーケティングとセールスの努力を通じて顧客満足度を最大化し、最終的な購入意欲を促進するための重要成功要因となります。

それぞれのリードが正確なタイミングで適切な部門に移行し、各顧客へのパーソナライズされたコミュニケーションと対応が円滑に行われることが、1対1マーケティングの成功を大きく左右します。

顧客理解における営業部門の役割は、その観察的な顧客認識という定性的な情報において特に重要です。

ピーター・ドラッカーが指摘したように、「真に重要なことは定量化できない。数値だけで判断しようとすると決断を誤る」ことがあります。

この言葉は、ビジネスにおける意思決定プロセスにおいて、定量的データだけではなく、定性的な洞察もまた不可欠であるという重要な原則を示しています。

営業部門が認識する顧客の反応やニーズの微妙なニュアンス、顧客との会話から得られる直接的なフィードバックは、定量化することが難しいかもしれません。しかし、これらの定性的な情報は、顧客理解を深め、より適切な製品やサービスの提供、パーソナライズされたコミュニケーション戦略の開発において、中核的な役割を果たします。

定量的データが提供する客観的な枠組みと合わせて、営業部門の観察による定性的な洞察は、より全面的な顧客理解を可能にし、結果としてより効果的な意思決定を促進します。

営業部門から得られる直接的な顧客認識は、製品開発、マーケティング戦略、顧客サービスの改善など、企業のあらゆる面で意思決定を導くために不可欠です。

1on1マーケティングでは、対象顧客のプロフィール情報を取得し、個々の顧客に最適なアプローチを設計することが必要です。

このアプローチにより、顧客一人ひとりのニーズや好みに合わせた製品推薦、コミュニケーション、ソリューション提案を実現できます。

しかし、このような対象顧客を絶対に攻略する必要があるビジネスモデルでは、属性分類によるアプローチが戦略の精度を低下させる可能性があります。これは、属性分類によって個々の顧客の独特な特性やニーズが見落とされるためです。

したがって、属性分類の利用方法を慎重に考え、個々の顧客に焦点を当てたアプローチを取り入れることが重要です。このようなビジネスモデルでは、マーケティング適格リード(MQL)よりもセールス適格リード(SQL)の意義が高くなります。

SQLは、既に購買意欲が高いため、セールスチームが効果的に投資できるリードであり、高いクロージング率と効率的なリソース配分につながります。

すなわち、1on1マーケティングでは営業担当者の存在が大きくなるというわけです。

ビッグデータ分析を通じて、企業は大量のデータから洞察を得ることができ、リスクを最小限に抑えつつ効率性を向上させ、よりデータに基づいた意思決定を可能にします。

顧客の行動、好み、トレンドのデータ分析により、顧客理解が深まり、顧客ニーズに合わせてカスタマイズされた製品やサービスを提供することで顧客満足度を向上させます。

特にEコマース業界では、インターネットを介して広大な潜在顧客市場にアクセスできるため、顧客理解にビッグデータを活用することが不可欠です。これにより、顧客の行動、嗜好、購買パターンを詳細に理解し、マスマーケティング戦略を効果的に行うことができます。

しかし、パーソナライズの実施は様々な粒度で行われ、必ずしも個々の顧客一人ひとりにまで細分化されるわけではありません。

ビッグデータによる洞察を基に、顧客を特定の属性や行動特性に基づいてセグメント化し、それぞれのセグメントに合ったカスタマイズされたマーケティング戦略や製品提案を行います。

分散型市場の潜在顧客に対するマスマーケティングでは、全ての顧客に対して完全にカスタマイズされた体験を提供することは技術的、経済的に困難であるため、類似した嗜好や行動パターンを持つ顧客グループをターゲットにすることが現実的な戦略となります。

では予めターゲット顧客が明確な1on1マーケティングではどうでしょうか?

製品そのものでの差別化が難しくなってきた結果、製品から得られる価値やどのように社会に貢献するのかなどが重視されはじめました。コトラーのマーケティング3.0ではこれを価値中心の時代と呼びます。

マーケティング3.0では製品中心の物質的な面だけでなく、社会をより良くしたいなど精神的な面も含めた価値が求められます。

企業は、単に製品やサービスの機能的価値を提供するだけでなく、使用することで社会や環境に対してプラスの影響を与える満足感を消費者に提供することに重点を置くようになってきました。

持続可能性を中心としたブランド価値では、たとえば、リサイクル可能な材料を使用した製品、エコフレンドリーな製造プロセス、社会的に弱い立場の人々を支援するための一部の収益の寄付などが挙げられます。

企業は、マーケティングコミュニケーションを通じて、製品の使用がどのようにSDGsに貢献しているかを明確に伝える必要があります。ソーシャルメディア、ウェブサイト、パッケージング、広告キャンペーンを通じて、製品の持続可能性の特徴や社会的影響を強調することが重要です。

今日の消費者は、単に製品を購入するだけでなく、その購入がもたらすより広い影響にも関心を持っています。企業がSDGsに貢献する製品やサービスを提供し、そのプロセスと成果を透明に共有することで、消費者により大きな満足感を提供することができます。

1.相関関係は因果関係を意味しない
2.すべての顧客が同じ反応を示すわけではない
3.量だけでなく質も重要になる

面会回数と売上の2軸によるレスポンスレートから必要な面会回数を算出する方法は、顧客の行動変容を促し、売上を最大化するための有効なアプローチの一つです。この方法は、特にB2B営業やハイタッチセールスで有効性を発揮します。

このアプローチでは、過去の営業活動データから、顧客ごとの面会回数とそれに対応する売上データを収集した分析結果から、面会回数と売上の関係を明らかにし、それを基に未来の営業戦略を立てます。

収集したデータを用いて、面会回数と売上の間の相関関係を分析します。この分析には、散布図を用いた視覚的な方法や、相関係数の計算などが含まれます。

相関分析から関連性が確認できた場合、回帰分析を通じて面会回数と売上の間の具体的な関係式(モデル)を導き出します。このモデルを用いて、特定の売上目標に対する必要な面会回数を予測できます。

得られた関係式を基に、目標売上達成のために必要な面会回数を算出します。さらに、リソースの割り当てや営業戦略の調整を行います。

計画に基づき営業活動を実行し、定期的に実績を評価します。必要に応じて戦略を調整し、モデルの精度を高めるための追加データを収集します。

注意点もあります。

相関関係は因果関係を意味しないため、面会回数の増加が直接的に売上増加につながるとは限りません。市場環境や競争状況など、他の要因も考慮する必要があります。

すべての顧客が同じ反応を示すわけではないため、顧客セグメントごとに分析を行うことが重要です。

面会の量だけでなく、その質も重要です。適切な準備と質の高い対話が、効果的な面会には不可欠です。

このアプローチを通じて、一定水準の営業活動の計画性と効率性を高めることができます。しかし、市場や顧客の変化に柔軟に対応するためには、継続的なデータ分析と戦略の見直しが必要です。

コロナ感染症以降、面会の難しさやマルチチャンネル/オムニチャンネルを含む顧客タッチポイントの多様化が進み、ビジネス環境は急速に変化し、予測が困難になっています。顧客ニーズの多様化に対応し、この新しい現実に適応するためには、従来のアプローチを見直し、新しい手法を採用する必要性が高まっていることを認識するべきです。