一般消費材と異なり、医薬品ビジネスでは顧客獲得だけではなく、購入意志のない顧客を攻略する必要がある場合が少なくありません。

購入意志のない顧客を購入に向かわせるには、顧客の行動変容を促す必要があります。

顧客の行動変容を促すセールス話法として「SPIN話法」が有名です。

なぜSPIN話法が必要なのかといえば、

1.顧客は自身のニーズを自覚していないことが多いため
2.いきなり商品説明をしても顧客は興味を持たないため

顧客の潜在ニーズを引き出す必要があるからです。

SPIN話法は顧客にさまざまな質問を投げながら意思を確認し、ステップを踏みながらニーズを掘り下げ顕在化していきます。

つまり顧客自身で潜在ニーズを顕在化し、自身の口から言うように誘導するわけです。

SPIN話法の真髄は、自分が話したいことを相手に話させることです。

これはコーチングやカウンセリングの手法とも類似しています。

さてデジタルを活用した顧客とのタッチポイントは顧客の潜在ニーズを顕在化し行動変容を促し、処方インパクトを得ることは出来るでしょうか?

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若い方の中にはPHSを知らない方もいるのではないでしょうか?

PHSは携帯電話が普及する以前は通信端末として圧倒的なシェアを持っていました。

そのPHSも一般向けPHSは2021年に既に終了しており、ビジネス向けPHSテレメタリングも2023年3月末で終了することが正式に決まっています。

今後も病院内にアンテナを設置することでPHSを内線として継続使用することは可能ですが病院側はたった1台の基地局・子機の破損によってスタッフ間通信手段の全面的な見直しを求められる可能性があります。

それを受けてPHSの代替について検討する医療機関も増えてきました。

そもそもPHSが廃止になった経緯にはスマートフォンの普及があるために代替としてスマートフォンに切り替わることは自然のことのように思えます。

しかし実際には今後も構内PHSとして利用を続けると回答した病院は、86.3%となり、8割以上の病院が新しい通信手段の導入に消極的です。

その理由は、

・どのような機器を導入すればいいのか分からない……20.7%

・導入する予算がない……38.6%

・電波干渉の不安がある……28.8%

といった多くの病院で「無線通信機器に対する知識不足」であることが理由です。

これは多くの製薬企業が勧めているDXによる情報提供推進は、情報の非対称性を解消し可能な限り早く必要な情報を医療者に伝達することで、売上機会損失を最小化することにその目的がありますが、逆に情報を与えなければ顧客は適切な判断や意思決定が出来ず、例え不自由であっても従来の製品/サービスを使い続ける可能性があると言えます。

差別化を機能させ顧客の購買行動惹起させるためには、情報そのものが顧客の購買行動を惹起するほどのインパクトを有している必要があります(強者を除く)。

DXによる情報提供を機能させるためのPromotional designが必要です。

2012年1月に登場したイグザレルト錠ですが、特許切れに伴うAG参入の話題が聞こえて来るようになりました。

今回はDOACを題材に市場規模と成長性、製品の優越性を検証してみましょう。

DOAC市場は29億円と日本市場だけではあまり大きいとは言えないようです(NDBデータ)。

成長性では市場に参入する4製剤いずれも売上を伸ばしており成長性はあると言えます。

しかし一方でシェア推移を見てみると必ずしも市場の成長性に追随出来ていない製品もあるようです。

最もシェア値の低いリクシアナですが、競合の影響を受けておらず、シェア値16%の影響目標値、存在がマーケット動向に影響を与え注目される位置です。

特定の患者を確実に獲得するニッチ戦略が上手く機能しているのかもしれません。

シェア値を落としているプラザキサは3強型から2強型へのシェア類型の推移の中で競争に負けてしまった可能性があります。

統計ではイグザレルトとの相関がみられました。

検証のためのデータベースはNDBオープンデータを用いています。

NDBオープンデータは厚生労働省がレセプトや特定健診などの情報を収集・格納している「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB=ナショナルデータベース)」のデータの一部を、誰でも自由に利用できるよう単純な集計表として公開したものです。

薬剤に関するデータは、「内用」「外用」「注射」のそれぞれについて、「外来院外」「外来院内」「入院」ごとに、薬効別に処方数上位30品目を集計。「性別年齢別」「都道府県別」の集計表が公開されています。

必ずしも市場全体の売上を反映していないため比率や傾向などの参考情報とした方が良いでしょう。

市場のライフサイクルが成熟期から衰退期に向かい、同一化が進むことで差別化が難しくなっています。

そのため製薬各社は製品以外の付加価値向上のためにDXによる顧客からの情報アクセス向上を進めています。

カスタマーセントリックによって顧客への提供価値の最大化を図るためです。

しかし結果として顧客の利便性向上は企業にとっては優越性を失うことにつながる場合があります。

医薬品は高度な情報を伴う製品であるために不完全競争市場を基本とし、製薬企業優位な市場構造を形成します。

ECビジネスで明らかのように、顧客が情報を得ることで完全競争市場が形成されると一強型市場形成が一気に進むこととなり一握りの勝者とその他大勢の敗者の二極化となります。

医薬品ビジネスのように製品ライフサイクルが長いケースでは一人勝ちが続き、逆転することはブロックバスター製品が登場するなど以外では不可能でしょう。

手段の選択を誤っては効果を得られません。

手段を正しく選択するためには「目的」と「達成したいゴール」を明確に定める必要があります。

ベストプラクティスを取り入れる際には、「自社の製品やサービスにも適しているのか?」今一度、考えてみましょう。

デジタル時代のプロモーショナルデザイン②

MRの活動評価KPIとして面談回数、面談内容、メール開封率、Web講演会の視聴率などの他に、それらへのリアクション率を加える企業が増えているそうです。

昨今では働き方改革や業務効率化、コロナ禍などの社会背景により、顧客への直接訪問ではなく、メールやWebなどでアプローチを行う非対面型の「インサイドセールス」が注目を集めています。

インサイドセールスとは、見込み顧客(リード)に対してメールや電話など非対面で行う営業活動で、見込み顧客の育成(リードナーチャリング)を担う、マーケティングと営業の間の架け橋のような役割です。

これにより顧客エンゲージメントを高めることにより受注確率が高まったタイミングでセールスへ引き継ぐことが出来ます。

すなわち不特定の顧客に対するマスマーケティングから、リアクションがあった顧客を抽出することで受注確率の高い顧客を選別し、顧客属性に沿ったターゲットマーケティングを行います。

しかしリアクションとは外からの働き掛けを受けたことに対応して生じる、「反射的な動き」を意味するため、実際に受注するためには顧客攻略に必要な行動変容を促す、外からの働き掛けを受けたことに対応して生じる、「意識的な反応」であるレスポンスを引き出す必要があります。

製薬業界においてもMRによる対面営業とWeb講演会や動画コンテンツなどのデジタルチャネルを組み合わせたハイブリッド型の情報活動に移行が進んでいますが、KGIとなる売上実績を評価項目としても「処方獲得数」を活動評価にあげる企業は少ないようです。

顧客が知りたいであろう情報を、企業が提供する、あるいは顧客自身がリーチしやすいようにする。

これらを実現することを目的としたDXの推進は正しいでしょうか?

『人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ』
A lot of times, people don’t know what they want until you show it to them

『ある人たちは「顧客の望むものを与えよ」と言うが、それは私のやり方ではない。私たちの仕事は顧客が望むよりも先に彼らがこれから望むであろうものを理解することだ』
Some people say, give the customers what they want, but that’s not my approach. Our job is to figure out what they’re going to want before they do.

スティーブ・ジョブズの有名な言葉ですが、これは「人の消費行動は必ずしも合理性を伴うとは限らない」ことを意味しています。

情報を発信するには戦略に基づいたプロモーショナルデザインが求められるのです。

一般的な消費材マーケティングでは全体市場から受注確率の高い顧客をターゲティングするために絞り込みを行いますが、医薬品ビジネスの場合には初めからターゲット設定がされている場合が殆どだと思います。

当然のことですが、その中には処方確率の高い顧客ばかりではなく、処方を獲得するために攻略が必要な顧客も含まれています。

つまり消費材マーケティングのような絞り込みによる効率化は図れていないということです。

この混在がMAによって必ずしも処方インパクトが得られない要因だと思います。

敵に勝つために最も重要な条件とはなんでしょうか?

それは戦力で敵を上回ることです。

戦力は兵力数×武器性能で決まります。

医薬品ビジネスの場合、武器性能は製品に該当しますが、同じクラスの薬剤間で大きな差別化が難しいため、兵力数が大きな影響因子になります。

兵力数、すなわちMR数など経営原資を意味します。

これが数に勝る大企業が強者となる理由です。

経営原資は限られています。

戦力を集中させた方が勝ち分散した方が負ける」ということです。

正しいアロケーションの手法が必要です。

「メラビアンの法則」では、言語情報は、メールやチャットなどのコミュニケーション代替ツールによって十分代用は可能であると言われており、対面によるコミュニケーションよりも事実を過不足なく伝えられるメリットがあるといわれています。

しかしメールやチャットなどのオンラインに依存した言語コミュニケーションツールで使用される語彙数は、日本人が日常的に話したり、聞いたりする語彙数の5分の1にしかならないという研究結果もあり、対面の場合に比べてかなり少なくなります。

つまり対面コミュニケーションで得られる情報量のうち7%が言語情報であり、そのうちの5分の1の1.4%程度の情報量しかオンライン言語ツールからは得られないということです。

実際にデジタルによる情報提供は当初期待したような処方インパクトが得られていません。

デジタルの活用とデジタル化の推進は当然進むべき方向ですが、デジタル推進においては対面での情報提供チャネルの重要性を理解するべきでしょう。