JAMAに掲載されたSMART-Cのメタ解析(JAMA 2025;7:e2520834)は、SGLT2阻害薬がベースラインeGFRやアルブミン尿(UACR)の程度にかかわらずCKD進行リスクを低下させ、ステージ4 CKDや微量アルブミン尿を含む広い範囲で腎アウトカム改善を支持する、と結論づけました。
しかし、一般化(条件撤廃)が成功するほど、臨床の意思決定は別の方向で難しくなります。エビデンス薬が増えるほど推奨は積み上がり、併存症の多い高齢患者に「ベネフィットがある薬剤を全て」適用すれば“Fantastic Infinity”になり得る──その危惧は本稿の核心です。
しかも、エビデンス薬同士の優先順位を示すhead-to-head試験は成立しにくい。結果として「投与しない勇気」という暗黙知に委ねられる局面が生じます。
ここで重要なのは、JAMAの統計アプローチが“弱い”のではなく、問いが違うという点です。SMART-Cは、層別(eGFR/UACRなど)で治療効果を推定し、逆分散加重で統合することで「平均として広く効くか」を強く示します。
ただし、次の意思決定──「誰に強く勧め、誰は慎重にし、誰は見送るか」──を作るには限界が残ります。理由はシンプルで、(1)層別解析は相互作用(効果修飾)の検出力が不足しやすく、「差が見えない=差がない」とは言い切れないこと、(2)eGFRやUACRをカテゴリ化することで連続的な非線形性や“カテゴリ内の異質性”が見えにくいこと、(3)逆分散加重で得られるのは基本的に“平均(サブグループ平均)”であり、もし真の世界にテイル(効きにくい/害が勝つ少数)があるなら、その構造は平均化で薄まることです。
この「平均の外側」を扱うために、DSA+DAGが解決策となる可能性があります。ここで必要なのは、新しい“推奨”ではなく、優先順位づけを支える説明可能な意思決定です。
DSA(分布構造分析)は、平均効果に回収されがちな反応の異質性を、分布の形として一次情報化します。たとえば同じ“有効”でも、(1)改善が厚い中心と、(2)効きにくいテイル(あるいは不利益が大きいテイル)が混在していないか、(3)二峰性(効く群/効かない群)が立っていないか、といった「適用の粗さ」を検知できます。平均の優越ではなく、“どこまで一般化してよいか”の境界条件を、データの形から提示するわけです。
またDAG(因果グラフ)は、その分布の形がなぜ生じるのかを因果経路として記述します。併存症、フレイル、併用薬、フォロー頻度、そして「処方する/しない」という選択自体をノードとして明示すれば、交絡・媒介・選択バイアスがどこに入り、何を調整すべきかが構造として見えるようになります。すると「この患者には使わない」という判断が、単なる経験談ではなく、反証可能な仮説(どの経路が不利益を増幅するか)として説明可能になります。
メタ解析が“条件撤廃”を推し進める時代に必要なのは、条件を外すこと自体ではなく、外した後に生じる優先順位の空白を埋めることです。DSAで“誰にどれだけ(形として)効くか”を示し、DAGで“なぜそうなるか(構造として)説明する”。この連結があれば、Fantastic Infinityを避ける「止めどころ」を、経験値ではなく監査可能な意思決定として提示できる可能性があります。
参考(背景論文):Neuen BL, Fletcher RA, Anker SD, et al; SMART-C. SGLT2 Inhibitors and Kidney Outcomes by Glomerular Filtration Rate and Albuminuria: A Meta-Analysis. JAMA. 2025 Nov 7:e2520834. doi:10.1001/jama.2025.20834.
