消費者の購買行動を説明する際、長年使われてきたのが「AIDMAモデル」です。
Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)という5段階の流れは、まさにマスマーケティング時代の購買プロセスを象徴してきました。
しかし、近年の消費行動を見ていると、このような“直線的な購買プロセス”では説明しきれないケースが増えてきました。
たとえば、「SNSで流れてきたコスメが可愛かったから即購入」「話題のカフェに行ってみたかったから予約」「このブランド、なんとなく世界観が好きだから選んだ」といった行動。そこには、「〇〇が欲しいから情報を探した」ではなく、むしろ「目に入ったから欲しくなった」という流れが存在します。
つまり、消費財においては、“ニーズ”が必ずしも明確な目的から生まれるものではなく、時に“手段”としてのニーズが“目的”化しているのです。
「癒されたい」「変化を感じたい」「誰かと共感したい」といった抽象的な感情が先にあり、その感情を満たす行動や商品が“目的”になる。
この構造は、医薬品などの機能的商材とは大きく異なります。
医薬品の場合、ウォンツはあくまで治療という明確な目的を達成するための「手段」です。選択はガイドラインやエビデンスに基づき、感情や共感ではなく、合理性と制度に根ざしています。
一方で消費財は、ウォンツが目的そのものになり得る。
そのため、行動変容モデルも変化せざるを得ません。
このような変化に対応するかたちで、近年はAIDMAの派生モデルも数多く登場しています。
たとえば、AISAS(検索→共有を含む)、ULSSAS(共感→検索→購入→シェア→共感のループ)、SIMA(Sympathy→Interest→Memory→Action)などです。
これらはすべて、「目的と手段が入れ替わる」現代の消費スタイルに合わせ、より循環的で感情主導型のフレームへと進化しようとする動きといえます。
ニーズはもはや、与えられた課題に対する“解決策を探す起点”ではありません。
生活者自身が「こういう気分でいたい」「こうありたい」と感じる、その瞬間に立ち上がる“自己目的化された欲求”なのです。
私たちがマーケティングを考えるとき、行動モデルそのものの前提を問い直す必要があるようです。