2025年3月期の決算に合わせて、製薬企業各社が中期経営計画を発表しました。売上高や営業利益、ROEといった財務目標は例年どおり明記されています。そして、グローバル展開や研究開発の重点領域も語られています。
しかし、多くの中計において欠けているものがあります。それが「営業戦略」です。
売上目標はある。売る製品の方向性も示されている。けれど、「どうやって売るのか」「誰に何を、どう届けるのか」という販売戦略や営業体制に関する記述は、ほとんどの企業で見当たりません。
■ 戦術だけが並ぶ“中計あるある”
唯一、営業施策に踏み込んだのはツムラでした。eプロモーションの拡充や、医師との双方向コミュニケーション、MR教育強化のための「漢方マイスター制度」など、具体的な取り組みが明記されています。
しかしそれらは、あくまでも手段であり、「戦術」にとどまります。
たとえば、
- 「どの市場を優先するか(セグメンテーション)」
- 「誰を主要ターゲットとするのか(ターゲティング)」
- 「どのような価値で競争優位を築くのか(ポジショニング)」
といったSTPに基づく戦略的思考。つまり「選択」と「集中」を伴う意思決定は、ツムラを含め、ほぼどの中計からも読み取ることができません。
■ 戦略と戦術のすれ違い
戦術とは “How(どのように実行するか)” を示すものであり、戦略とは “Where(どこで)”、“Who(誰に)”、“What(何を)” を決める意思決定です。具体的に言えば、eプロモーションは「How=戦術」にあたります。重要なのは、「どのターゲットに、どのようなメッセージを届けるか」を明確にしたうえで、その手段として「eプロモーションが最適かどうか」を判断することです。もしそこが曖昧なまま手段だけが先行すれば、それは単なる施策の羅列に過ぎません。
中期経営計画は本来、「今後の方向性」を社内外に明示するものです。そこに戦略的な選択が含まれていなければ、現場は「何を優先すればいいのか」が分からず、ただ数値目標に追われることになります。
■ 戦略なき中計が生む2つの弊害
- 営業現場が迷走する
リソースを集中すべきターゲットや優先順位が明示されないことで、営業は広く浅く動かざるを得ません。結果としてリソースが分散し、費用対効果は低下します。 - KPIが機能しなくなる
戦略が不在の中で設定されたKPIは、成果との因果関係が不明瞭です。「やったこと」は数値化できても、「なぜ成果につながったか」が語れません。
■ 本当に必要なのは、「営業体制の再構築」ではなく「戦略の再設計」
国内医薬品市場は縮小傾向にあり、もはや“みんなで売れば売れる”時代ではありません。むしろ、「誰に集中するか」「何を捨てるか」を明確に定め、限られた営業リソースを戦略的に投入する必要があります。
それにも関わらず、多くの中計は、営業戦略を語ることなく「研究開発」と「財務目標」だけを軸に置いています。それでは、営業部門の生産性をどう最大化するのかという問いに答えることはできません。
■ まとめ:中計は“願望”ではなく“意思”であるべき
中期経営計画は、単なる数字の羅列ではありません。企業が「どこで、どう勝つか」を意思として示す場です。
それは、戦術を整えることではなく、戦略を言語化することです。戦略があって初めて、戦術は意味を持ちます。
中計という公式文書において、戦略が言語化されていないままでは、現場や投資家には伝わらず、結果的に“戦術だけが並ぶ空疎な計画”という印象を与えてしまうのです。
