全体市場のリーダーが、すでに強者が存在するニッチ市場に参入することは、ビジネスの世界では珍しいことではありません。その代表的な事例の一つが、Microsoftが企業向けチャットツールのニッチ市場を狙ったSlackに挑んだケースです。当時、Slackはスタートアップ企業を中心に支持され、簡単かつ効率的なチームコミュニケーションを可能にするツールとして強い存在感を放っていました。しかし、Microsoftは「Microsoft Teams」をOffice 365のエコシステムに統合する戦略を打ち出し、既存ユーザーに追加コストなしで利用できる利便性を武器に一気にシェアを奪取しました。

また、Appleがスマートフォン市場のリーダーとして、健康志向のユーザーをターゲットにウェアラブルデバイス市場で強いブランド力を持っていたFitbitに挑んだ例も興味深い事例です。Fitbitは健康管理機能を武器に一定のシェアを獲得していましたが、Appleは「Apple Watch」を投入し、iPhoneとのシームレスな連携を強調することで、ウェアラブル市場での地位を急速に拡大しました。最終的にApple Watchは市場のリーダーとなり、FitbitはGoogleに買収される結果となりました。

さらに、Googleが検索エンジン市場のリーダーとしてローカルビジネスレビュー市場を狙ったYelpへの挑戦も同様の構図です。Yelpは、ユーザー生成レビューを中心にローカルビジネス情報のプラットフォームとして成功を収めていました。しかし、Googleは既存の検索エンジンとGoogleマップの機能を統合し、ローカルレビュー市場に進出しました。その結果、Googleマップは圧倒的なシェアを持つ存在となり、Yelpは市場での存在感を大きく失いました。

これらの事例を振り返ると、全体市場の強者がニッチ市場に挑むことで、業界の構図が大きく変わることがわかります。CRM市場全体で圧倒的な地位を持つSalesforceが、製薬業界特化型CRM市場においてリーダーであるVeevaに挑む姿勢を示したことは、この構図の典型的な例といえるでしょう。

SalesforceがVeevaに挑む意図としてまず挙げられるのは、製薬市場の成長性への期待です。規制が厳しく参入障壁が高い市場である一方、デジタルトランスフォーメーションが進展し、CRMソリューションの需要が増加している製薬業界は、新たな収益源として極めて魅力的なターゲットといえます。また、SalesforceにとってVeevaはかつて自社プラットフォームを基に成長した存在であり、その牙城を崩すことは全体市場のリーダーとしての意地を示す機会でもあります。

全体市場の強者がニッチ市場の牙城を崩すためには、その市場特有の課題に応える適応力と、既存の強みを活かした統合的なアプローチが求められます。Salesforceがこれらを実現できれば、製薬CRM市場においてVeevaに匹敵する存在となる可能性を秘めています。その一方で、Veevaの専門性や業界標準としての地位を軽視すれば、苦戦を強いられることになるでしょう。この競争の行方は、CRM市場全体の勢力図に影響を与える注目のテーマとなるはずです。

ここ数年間で飛躍的にビジネス現場に浸透してきたAIですが、近年、「AIによる未来予測は不可能だ」とする議論も出てきています。その理由の一つは、予測のベースとなるデータに過度に依存している点です。AIは過去のデータからパターンを抽出し、それをもとに未来を推測しますが、現代の急速な環境変化には追いつきにくいという側面があります。経済や社会の動きは複雑かつ多様な要因に左右されるため、AIの予測精度にも限界があります。特に、現代は予測不能な「VUCAの時代」とも言われます。

さらに、未来予測を妨げる要因として、突発的で予測困難な「ブラックスワン」と呼ばれる事象も挙げられます。例えば、パンデミックや金融危機など、過去のデータにはほとんど見られない予期せぬ出来事に対して、AIは対応しにくいのです。また、人間の行動や意思決定は必ずしも合理的ではなく、多くの不確定要素が含まれるため、これもAIによる予測を難しくしています。

そのため、AIは未来の可能性を探るサポート役にはなりますが、確実な未来予測は難しいのが現実です。この背景から、現状をしっかりと分析し、変化に柔軟に対応することが一層重要とされています。

一方で、AIによる未来予測が不確実であっても、企業としては中長期的な戦略を立てる必要があります。特に、変化のスピードが速いVUCAの時代では、その変化に柔軟かつ俊敏に対応することが求められます。そして、この変化を敏感に察知し、状況に応じて迅速に修正できるのは、顧客と直接対面する営業担当者です。しかし、デジタル化の進展により、営業担当者の存在意義が問われつつあります。

VUCAの時代においては、中長期的な戦略を立てつつも、変化に応じた柔軟な対応が欠かせません。特に営業担当者は、顧客との対面を通じて「現場の肌感覚」で状況を察知し、リアルタイムで情報を共有するという重要な役割を担っています。営業担当者のインサイトは、デジタルデータでは得られない独自の視点です。例えば、顧客の微妙な反応や非公式なフィードバック、予期せぬ問題や新たなニーズなど、数値に現れにくい情報を感じ取る力は、営業担当者ならではの強みといえるでしょう。この情報は企業にとって貴重で、戦略や対応策の微調整に欠かせません。

デジタル化の進展により「営業担当者が不要になる」という意見もありますが、実際にはデジタル技術が営業活動を補完し、営業担当者の役割をより高度化する可能性もあります。デジタルツールによって日々の業務負担が軽減されることで、営業担当者は顧客理解や関係構築により多くの時間を割くことができるようになります。デジタルツールで得たデータを活用しつつも、人間らしい対応や柔軟な判断を加味することで、営業の価値は一層高まるでしょう。

また、営業担当者が現場の変化をリアルタイムで捉え、柔軟に対応できるような組織設計や意思決定プロセスも重要です。デジタル技術と営業担当者が連携し、データと人間の洞察を組み合わせた、人を中心としたアプローチを取ることで、企業は変化に強い体制を構築できるはずです。

世界の製薬ブランド上位50社のうち、実に47社がVeevaのクラウドCRMサービスに依存しています。これは製薬業界には同質化の体質があり、競合他社に対する競争意識の低いことがわかります。

製薬業界におけるターゲット顧客は、主に医師や医療機関であり、極めて明確で限定的です。そのため、企業ごとに異なる顧客基盤を持つことが難しく、すべての企業が同じ顧客層に対して同じVeeva CRMを活用するという状況に陥っています。結果として、顧客へのアプローチや提供価値が一様化し、差別化が非常に難しい状態が生じています。

同質的な顧客管理がもたらすリスク

Veevaを通じて標準化された顧客管理は、業務効率化には寄与するものの、競争優位性を生む要因にはなりえないというリスクがあります。顧客管理ツールが同じで、かつターゲット顧客も同一であることから、各社のアプローチが画一化し、顧客から見た企業の印象に大差が生じにくくなります。特に、市場が縮小しゼロサムゲームの競争が激化する中では、自ら差別化を難しくし、競争力の低下を招いていると言えます。

Salesforceの参入による新たな可能性

Salesforceが新たに製薬向けCRM市場に参入することで、Veeva一辺倒の環境に変化がもたらされる可能性があります。Salesforceは、より柔軟なカスタマイズ性と高度なデータ活用機能を提供することで、製薬企業が競合と異なる独自の顧客アプローチを構築できる余地を提供します。CRMの選択肢が増えることで、業界全体が一様化から脱却し、企業ごとの差別化が可能になる一歩が期待されます。

まとめ

製薬企業が同一のVeeva CRMに依存し、さらにターゲット顧客が重なるという現状は、競争環境の均質化を助長し、競争優位性の確立を難しくしています。ゼロサム市場での成功には、単なる効率化を超えた独自の付加価値創出が必要です。競合他社との違いを生み出すことこそ競争優位性を生みます。


市場が成長期から縮小期へと移行すると、大企業の持つ豊富な経営資源は、ゼロサムゲームにおける圧倒的な競争優位性を築きます。この状況で中小企業が生き残るためには、大企業と同じ土俵で戦うのではなく、独自の戦略を構築する必要があります。

かつての市場成長期では、需要が右肩上がりで増えていたため、中小企業も大企業が開拓した市場に同様の戦略で参入することで、シェアを獲得する余地がありました。しかし、縮小期に入ると市場全体の成長が止まり、競争は限られたパイの奪い合いに変わります。このようなゼロサム環境では、限られた経営資源しか持たない中小企業が、資源に勝る大企業と同じ戦略で競争するのは、無謀とも言えます。

中小企業が取るべき3つの戦略

縮小市場でのサバイバルを可能にするために、中小企業が考慮すべき3つの戦略があります。

1. ニッチ戦略:狭くても深い市場を狙う

中小企業は、大企業が手の届きにくい特定のニッチ市場に焦点を当てることで、競争優位を築くことができます。ニッチ市場では、ターゲット顧客が限定されているため、少数精鋭のリソースでも深い理解と特化したサービスを提供することで、限られた経営資源での競争が可能です。例えば、特定の地域や業界に特化したサービスや、独自のカスタマイズ機能を持つ製品を提供することで、顧客のロイヤリティを高めることができます。

2. 差別化戦略:大企業には真似できない独自性を追求する

大企業は大規模で効率的なビジネスを追求する傾向があるため、個別のニーズに対して柔軟に対応することが難しい場合があります。そこで、中小企業は、大企業には真似できない柔軟性を活かし、顧客に寄り添った独自のサービスや対応を提供することで差別化を図ります。迅速な対応、顧客と密接なコミュニケーション、柔軟な契約形態など、小規模な企業ならではの強みを前面に押し出すことで、顧客からの信頼を獲得することが可能です。

3. 集中化戦略:リソースを一点集中し、戦力を最大化する

リソースが限られている中小企業は、ターゲットを明確に絞り込むことで、効率的に戦力を投入することが求められます。具体的には、地域、業種、顧客層などのセグメントを徹底的に分析し、最も収益性の高い分野にリソースを集中させます。例えば、特定の業界での評判を築くことにより、他業界への口コミが生まれ、新たな顧客獲得にもつながる可能性があります。

縮小市場で勝ち残るために

市場が縮小する中で、中小企業が成功するためには、大企業と同じ戦略を取るのではなく、自社ならではの強みを最大限に活かした独自の戦略を採用することが必要です。大企業の強みは豊富な経営資源ですが、戦略が中長期になる事と意思決定に時間がかかる事は変化のスピードが速い現在のビジネス環境では大きな弱みとなります。不確実性の時代では市場を先読みし新たな価値を生み出すことでゲームチェンジャーとなる可能性があるのです。

製薬業界のように厳格な規制を受け、ターゲット設定やKPIの管理が行われる場合、本社と現場の間での認識の相違がしばしば表面化します。本社のマーケティング担当者は自分たちのプランを「マーケティング」だと信じて日々奮闘していますが、実際の顧客に最も近い営業担当者が感じる「これはマーケティングではない」という違和感。その要因を両者の視点から掘り下げてみましょう。

マーケティング担当者の視点:管理された戦術としてのマーケティング

本社のマーケティング担当者は、ターゲット顧客やメッセージの内容、達成すべきKPIを策定し、MR(医薬情報担当者)が現場で効果的に伝えられるように、顧客が求める価値や製品の独自性を最大限引き出すためのツールや資料を整えています。このプロセスは、マーケティングの本来の役割である「顧客のニーズに応じた価値提供」を実現しようという意図のもとで行われています。しかし、規制が厳しく消費財ビジネスのような自由なマーケティングができないため、形式的にターゲットやメッセージを管理するに留まるものになっているのが現状です。

本社でのマーケティング活動は、顧客に対して間接的なアプローチを行うものであるため、「情報提供」や「認知度向上」が主目的となっており、営業活動の補佐的な役割に留まります。これが単なる販売促進に留まらず、顧客との価値ある関係を構築し、継続的にその期待に応え、顧客にとっての価値を提供し続ける包括的なプロセスである「広義のマーケティング」とは少し異なるものになっていることを、マーケティング担当者は認識しないまま、自分たちの活動を「これがマーケティングだ」と信じて実行しているのです。

営業担当者の視点:現場のリアルとプランとのギャップ

一方、日々顧客と接する営業担当者は、マーケティングプランが現場のリアルな顧客ニーズと合致しているかどうかを肌で感じています。ターゲット選定やKPI管理、統一されたメッセージが、実際の顧客との対話の中でどの程度価値があるかを観察し、その効果をリアルタイムで評価しています。このため、顧客の細かいニーズや反応が本社のプランと合致しない場合、「これはマーケティングではなくただの指示ではないか?」と疑問を感じることになります。

現場の営業担当者は、「顧客との対話の中で生まれる信頼や柔軟な対応こそが、真の価値提供に繋がる」と考えています。したがって、画一的なメッセージやKPI設定では、顧客に響くアプローチができないと感じ、本社のマーケティング活動に違和感を覚えるのです。

両者のギャップを埋めるには?

このようなギャップを埋めるには、マーケティング担当者が現場の声に耳を傾け、双方向のフィードバックの仕組みを取り入れることが重要です。営業担当者の知見を反映した柔軟なマーケティングプランや、活動を通じて顧客の購買行動のプロセスの促進を表すKSF(最重要成功要因)、を取り入れることでマーケティング部門と営業部門の連携を生み出し、結果的に営業現場での違和感を解消し、顧客にとって実感できる価値を提供するマーケティングが実現するのです。

最後に

「本社のマーケティングは本当にマーケティングか?」この問いかけは、両者がいかに顧客視点を重視し、業務の中でその価値を最大化できるかを再考させる重要なテーマです。製薬業界では規制による制約も多く、営業部門とマーケティング部門が真の意味での価値提供を実現するには、お互いの視点を尊重しつつ、顧客中心のアプローチを模索することが不可欠です。

ビジネスの現場で、「戦略を突き詰める前にマーケティングに走ってしまう」という現象が少なくありません。このような傾向には、即効性や短期的な成果が求められる現代のビジネス環境が影響していますが、全体像や方向性(本題)を明確にしないまま、個別の施策(各論)に取り組んでしまうことにはリスクが伴います。とりわけ、戦略が不明確なマーケティングが営業現場にどのような影響を及ぼすかは、見逃せないポイントです。

なぜマーケティングに走ってしまうのか?

企業がマーケティングに急ぐ理由には、短期的な成果を数値で確認できる点が挙げられます。戦略は抽象度が高く長期的な視点を伴うため、目に見える成果が即時に得られにくく、評価が難しい面があります。一方、マーケティング活動は、売上の増加やSNSのエンゲージメントといった形で迅速に効果を確認できるため、即効性を求める企業にとって魅力的です。これにより、企業は戦略の検討を後回しにして、まずは具体的なマーケティング活動に着手しがちです。

上位概念としての戦略の重要性

どれだけ巧みなマーケティング戦術も、全体の戦略が不明確であれば、企業の目指す方向性を欠いてしまいます。戦略は、企業のリソースをどう配分し、どの市場でどのように競争優位を築くかを決める「航海図」のようなものです。マーケティングや戦術は、この航海図に基づき、具体的にどのように進んでいくかを決める活動です。戦略があってこそマーケティングが方向性を持ち、リソースの最適な配分を通じて効果を最大化できるのです。

「誤った戦略は戦術では補えない」

「誤った戦略は戦術では補えない」という格言がある通り、戦略の方向性が誤っている場合、どれほど優れた戦術を駆使しても目的には到達しません。戦略が描くべきは「なぜ」その市場をターゲットとするのか、「何」が競争優位をもたらすのか、そして「どう」リソースを配分するのかです。これにより、マーケティング活動がバラバラに進むことなく、一貫性を持って組み立てられます。

本社部門の戦略不在が営業現場に与える影響

本社が戦略を明確にせずにマーケティングプランニングを行うと、現場での営業活動にさまざまな支障が生じます。まず、マーケティング施策の狙いや方向性が明確でないため、営業現場は一貫性のない指示を受けることになります。たとえば、活動量やターゲット顧客に関して具体的な根拠を持たずに施策が変更されると、現場は混乱し、顧客との信頼関係が損なわれるリスクが高まります。

さらに、戦略が不明確なため、営業担当者は自分たちの活動がどのように企業全体の成功に貢献しているのかを理解しづらくなり、モチベーションの低下につながります。マーケティング施策が短期的な成果を重視している場合、現場は顧客への説明や接点の確保に追われることになり、本来注力すべき長期的な関係構築が後回しになることもあります。

さらに、戦略が不在のままマーケティング活動が進むと、現場では過度に数値目標が重視され、営業担当者が短期的な目標達成だけに集中せざるを得なくなります。これにより、長期的な成果が見込める顧客へのリソース配分が減少し、持続的な成長が損なわれるリスクが増大します。

まとめ

戦略が不明確なままマーケティングに走ることは、本来の目的を失ったまま個別の施策(各論)に取り組むようなものです。本社部門が戦略を明確にしないままマーケティング活動を進めると、営業現場は混乱し、短期的な目標達成が優先される結果、顧客との関係が希薄になりかねません。戦略を確立し、本題としての方向性を共有することで、各論であるマーケティングや営業活動が一貫性を持って進められ、長期的な競争優位と持続的成長を支える基盤が整うのです。

医薬品ビジネスは、他の消費財やサービス業と異なり、厳しい規制や市場構造、顧客層の特殊性により、マーケティングの自由度が大きく制限されています。まず、広告やプロモーション活動は一般消費者に直接的に訴求できず、医師や医療従事者に限られます。また、こうしたプロモーションでは科学的根拠やエビデンスが必須であるため、製品特長を前面に出した差別化やブランドイメージの訴求が困難です。医師は治療ガイドラインやエビデンスに基づいて処方を行うため、一般消費財のように製品特性を強調する従来のマーケティング手法が通用しにくいのです。

さらに、医薬品の品質や効果は法的基準により厳格に定義されており、製品間の差異が非常に小さくなっています。したがって、競争優位性を確保するには製品そのものの差別化ではなく、営業力や医療従事者との信頼関係が重要です。また、医薬品の価格は医療政策によって決まる場合が多いため、価格を戦略的に差別化することも難しい状況です。このため、医薬品業界で競争優位性を築くには、製品そのものに加え、サポート体制や付加価値の提供が必要です。

このような背景から、医薬品ビジネスにおけるマーケティング活動は、単に製品特性を訴求するだけではなく、バリューチェーン全体での価値提供を通じた競争力の強化が求められます。具体的には、医療従事者との長期的な関係構築、安定供給体制、KOL(キーオピニオンリーダー)との協力や継続的な医療情報提供が重要な役割を果たします。特定の医療機関や施設ごとのニーズや治療方針に応じてカスタマイズされたアプローチを取り、製品の質や効果以外の付加価値で関係性を強化することが、医薬品業界での競争優位につながります。

ただし、バリューチェーンによる競争優位性は、以下のような理由から経営資源に勝る企業が築きやすいとされています。

リソースの充実:人材、技術、資本を豊富に持つ企業は、バリューチェーンの各段階において多角的に対応でき、競争優位の強化が可能です。例えば、研究開発や製品改良、マーケティング、流通体制など、幅広い分野で質の高い取り組みが行えます。

  1. 迅速な対応と柔軟性:経営資源が多い企業は、突発的な市場の変化や新たな規制にも迅速に対応でき、リスクを抑えながら競争優位性を維持しやすくなります。必要な設備投資や人員増強にも積極的に対応できるため、新たな価値をスピーディに提供することが可能です。
  2. ブランド力の強化:経営資源が豊富な企業は、KOLとの関係構築や顧客向けの支援プログラムにも資源を投入でき、長期的に信頼性やブランド力を高める活動が可能です。特に医薬品業界では、これが顧客との長期的な関係構築に貢献します。
  3. 安定的な供給とサポート:安定した供給体制やカスタマーサポートを整えるには、一定の資本とリソースが必要です。経営資源が豊富であれば、供給体制やサポート体制の構築・強化がしやすく、顧客の信頼を得ることができます。

ただ、必ずしも経営資源が多ければ必ず競争優位性を確保できるわけではありません。資源の適切な活用と、バリューチェーンにおける戦略的なリソース配分が重要です。医薬品業界のように市場や顧客層が限定されている場合、限られたリソースを効果的に活用し、医療機関や医療従事者との関係を重視することで、リソースに限りがある企業でも競争優位性を築くことは可能です。

まとめとして、医薬品ビジネスでは、戦略的な視点でどの市場にリソースを集中させるかが重要であり、マーケティング活動はその戦略の枠組みの中で、限られた手段を活用して顧客価値を高める工夫が必要です。医療従事者との信頼関係、安定供給体制、サポートプログラムなど、バリューチェーン全体での価値提供が、最終的な成功を支える重要な要素です。

多くのマーケターは、顧客データ、購買データ、SNS分析など、様々なデータソースを組み合わせて多面的に評価し、意思決定を行っています。しかし、こうした方法は膨大なリソースを必要とし、分析の精度を上げる一方で時間やコストの負担が大きく、変化のスピードが速い現在のビジネス環境に適応し難いという課題があります。

一方、DXS Stratify®は、医薬品販売データベースという、アップデートの速い単一のデータソースに特化しながら、迅速かつ的確な分析プロセスを提供します。この革新性は、製薬業界特有のニーズに完全に応える設計となっています。


DXS Stratify®が提供する3つの特長

1. データの焦点化と効率性

DXS Stratify®は、医薬品販売データベースのみを使用して分析を行います。このデータには、医師の治療方針、処方傾向、競合他社の活動結果といった重要な情報が包括的に集約されています。そのため、追加のデータ収集を行うことなく、以下のような迅速かつ一貫性のある意思決定をサポートします:

  • 治療市場の全体像を即時に把握
  • 地域ごとの処方傾向や競合動向を的確に分析
  • 短期戦術から中長期戦略までの一貫した見直し

2. 特許アルゴリズムによる戦略的分析

DXS Stratify®は、独自の特許アルゴリズムにより、市場規模、競争ポジション(シェア順位)、競争優位性(シェア差)を基に、競争環境を定量化し可視化します。このため、専門知識がなくても以下が可能です:

  • ターゲット顧客の分類:優先顧客と適切なリソース配分を提案。
  • 競争環境の見える化:競合製品の動向や自社の競争優位性を一目で把握。
  • 具体的な戦略の提案:維持・強化・撤退などの意思決定をサポート。

3. リソースの最適活用

医薬品販売データに特化することで、DXS Stratify®は膨大なデータ処理を必要としません。このシンプルさにより、以下のような効率的な活用が可能です:

  • 高ROIを実現:コストを抑えつつ最大限の洞察を提供。
  • 使いやすさ:特定の専門知識がなくても操作が簡単。
  • 継続的な改善:月次のデータ更新でトレンドを追跡し、戦略をアップデート。

従来の分析手法の限界

膨大なデータを活用する従来のアプローチには以下のような課題があります:

  • ノイズの増加:多様なデータを扱うことで、因果関係ではなく単なる相関に惑わされるリスクが高まります。
  • リソースの浪費:データ収集や整理に膨大な時間やコストがかかり、分析結果のROIが低下する場合があります。
  • 判断の複雑化:膨大なデータポイントがかえって本質的な課題を見えにくくし、意思決定を遅らせる可能性があります。

このように、膨大なデータを扱うことが必ずしも精度向上につながらず、むしろ非効率や判断ミスを引き起こすリスクを内包しています。


DXS Stratify®の有用性:単なる分析ツールではない革新的な戦略支援ツール

DXS Stratify®は、医薬品市場特有の競争環境を深く理解し、競争力を強化するための意思決定を支援するツールです。単一のデータソースを活用しながらも、多角的かつ包括的な分析が可能であり、競争環境の変化に迅速に対応する力を提供します。

従来の多種多様なデータソースを必要とする分析手法とは異なり、DXS Stratify®は医薬品販売データベースに集約された情報をフル活用することで、効率性と戦略的精度を両立しています。「競争力の見える化」により、医薬品業界の複雑な市場環境において、競争優位性を確保するための最適な選択肢と言えます。

先月号から始まったMonthlyミクスへの連載も、早くも2回目を迎えました。

次号への入稿も無事に完了し、徐々に読者の皆様からご連絡をいただけるようになり、連載の手応えを実感しております。


ご支援くださった皆様、そしてお読みくださった皆様に心より感謝申し上げます。

縮小市場の中で、企業が競争に勝つためのポイントが変わりつつあります。かつて成長市場においては、「作戦・戦術」にあたるマーケティング活動や短期的な施策によって効果が得られる市場環境でした。しかし、現代のゼロサム市場、特に人口減少や市場成熟によって需要が拡大しない分野では、もはやその方法だけでは生き残ることが出来なくなりました。

縮小市場で重要になるのが「戦略」と「兵站」です。戦略はターゲティングとリソース配分に焦点を当て、縮小する市場の中で「どこを主戦場に、誰をターゲットとし、どのように戦うか」を決定する、すなわちSTP戦略です。限られたリソースを、利益が確保できる分野やシェアを奪いやすいターゲットに集中させる必要があります。これは単なるマーケティングのようにターゲット層を広く取るのではなく、企業の強みが真に生かせる分野や市場に絞り込み、そこでの競争力を最大化するアプローチです。

戦略で定めたターゲットやリソース配分を実行するために、リソースの供給と維持を担うのが兵站の役割です。人材、商品、資金、情報といった限られたリソースをいかに確保し、供給を維持し、無駄なく活用するかが兵站の主な課題です。ゼロサム環境では、適切なタイミングで必要なリソースが供給されないと競争に勝つことは難しくなるため、兵站が戦略と緊密に連携し、迅速かつ柔軟な対応が求められます。

成長市場では、参入者の誰もが売上を向上させることが出来るため、多少曖昧なマーケティングでも効果を発揮していました。しかし、縮小市場では限られたパイの中で確実にシェアを獲得する必要があるため、広範囲なマーケティング施策の効果は薄れがちです。その結果、戦術的なマーケティング活動よりも、どこで戦い、どこにリソースを投じるべきかを決めるマーケティングの上位概念である戦略と、そのリソースを確実に供給・維持する兵站の重要性が高まっています。

ゲーム型競争市場では、戦略と兵站によって最小限のリソースで最大限の効果を狙うことが重要です。たとえば、特定の顧客セグメントや地域に特化し、そこへリソースを集中することで、他社に対して競争優位を築きます。縮小市場におけるゼロサムのゲーム型競争市場で勝ち残るためには、戦略と兵站の強化が不可欠です。競争環境が厳しさを増す現代、企業は単なるマーケティング活動だけでなく、戦略と兵站を軸とした競争力の構築を目指すべきでしょう。