「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざは皆さんご存知ですよね。一見すると全く関係のないような出来事が、巡り巡って意外なところに影響を及ぼすことのたとえで、あてにならない、起こり得ない出来事を期待する時に使ったりします。
これは「風が強い年ほど桶屋の売上が伸びる」という相関関係の話にも聞こえます。しかし、本当は相関ではなく、もっと長い“物語”を語っています。
風が吹く
→ 土埃が舞う
→ 失明する人が増える
→ 三味線を弾く人が増える(物乞いなど)
→ 三味線の需要が増える
→ 猫の皮が多く使われる
→ ネズミが増える
→ 桶をかじられて傷む
→ 桶の需要が増える(桶屋が儲かる)
多くの場合、私たちは「風が強い年ほど桶屋の売上が伸びる」といった、二つの事象の関係を捉えるに留まりがちです。これは、単に相関を見ているに過ぎません。しかし、このことわざの真の価値は、その間にある長い“物語”、すなわち「風」から「桶屋の儲け」に至るまでの因果の連鎖を描き出している点にあります。
疑似相関 vs. 因果の連鎖:データの裏にある真実
ビジネスの現場では、「広告費を増やしたら売上が伸びた」「営業訪問回数と受注率には相関がある」といった議論が日常的に行われます。しかし、これらは「風と桶屋の相関」を直接結びつけているだけであり、真の行動変容やリスクを見誤る可能性があります。
典型的な事例が、「アイスの売上が増えると水難事故も増える」という典型的な疑似相関です。これは、外部要因である『気温の上昇』が両者を同時に増加させている構造であり、両者に直接の因果関係はありません。
一方、「風が吹けば桶屋が儲かる」は、話としては飛躍があれど、「風」→「土埃」→「失明」→…→「桶」と、各ステップ間を直接的な因果で説明しようとする、疑似相関とは逆の、因果の連鎖の構造を示しています。
本当に知るべきは、この連鎖構造の内部にあります。
- どのステップで人の行動が変わっているのか?
- どこに“ネズミ”のような見えないリスクやチャンスが潜んでいるのか?
- どこに介入すれば、連鎖全体の結果が大きく変わるのか?
私たちが追うべきは、二つの数字の相関ではなく、この構造と因果なのです。
DSA+DAGが解き明かす「風から桶屋」の物語
私がDSA(Distribution Structure Analysis:分布構造解析)とDAG(Directed Acyclic Graph:有向非巡回グラフ)を「構造解析エンジン」と呼ぶのは、この構造と因果を読み解くためです。
- DSA(分布構造解析): 売上やアクセス数、処方量などのデータの「ばらつき」や「偏り」を分析し、どこで異常な集中や異質な集団が生まれているかという分布構造をあぶり出します。これは、データのどの部分に「異常な土埃の舞い方」や「ネズミの異常発生」といった異変が起きているかを探す作業に相当します。
- DAG(有向非巡回グラフ): あぶり出された変数同士を「Aが増えるとBがどう変わるか」という矢印(因果)でつなぎ、因果の連鎖として可視化します。これにより、「風」→「土埃」→「失明」→…という、ビジネスにおけるストーリー全体像を明示的に描きます。
つまり、DSA+DAGは、「風が吹けば桶屋が儲かる」を単なる偶然の相関として片づけるのではなく、構造と因果の全体像として読み解くための分析エンジンなのです。
相関に満足するか、物語を書き換えるか
人口減少、市場縮小、そして勝者がすべてを得るwinner-takes-allの時代。
こうした環境で生き残れる企業は、「風と桶屋の相関」という表面的な関係を追いかけるのではなく、自社のビジネスにおける“風”から“桶屋”までの物語を描き直せる企業です。
データ分析の目的は、相関係数を並べることではありません。自社の「風が吹けば桶屋が儲かる」の連鎖を言語化し、どこに手を打てば未来を変えられるかを見つけることです。
相関に満足するのか。それとも、構造と因果を深く読み解いて、物語そのものを書き換えるのか。
DSA+DAGは、その選択を迫る時代の、ひとつの明確な答えを示すものとなるでしょう。
