医薬品ビジネスは、制度によって自由競争が制限される特殊な世界です。
製品は厳格な基準とルールのもとに同質化を余儀なくされ、消費者(患者)が自由に選ぶこともありません。
結果として、一般的なマーケティング理論で重視される「差別化」は、ここではなかなか通用しないのが実情です。

では、そんな環境でいかにして競争優位を築くべきでしょうか。
一つひとつの可能性を検討してみましょう。


オペレーショナル・エクセレンス(業務の卓越性)
製品供給の安定性や情報提供の正確さは確かに大切です。
しかし、ネット上でほとんどの情報にアクセス可能な今、それだけでは差を生むことは難しくなっています。
もはやこれは「競争優位」ではなく「前提条件」に近いものと言えるでしょう。


アクセス戦略・リレーションシップ
信頼関係が重要とはいえ、医薬品の世界では科学的エビデンスこそが意思決定の中心です。
情や関係性だけで処方が左右されるわけではなく、あくまでも信頼関係は“必要最低限の土台”と考えるべきです。


サービス・サポート型の差別化
患者支援などのサービスも一定の役割は果たします。
しかし、患者が薬を選べないこの世界では、処方決定に与える影響は限定的です。
特定領域を除けば、これを主軸とした差別化は難しいのが現実です。


データ・ドリブンなターゲティングとリソース配分
ここでようやく「差がつく領域」が見えてきます。
同質化市場では「どこで戦うか」「誰を狙うか」が勝敗を分けます。
限られたリソースを最も勝算が高い場所に集中投下する、これこそが現代の医薬品ビジネスにおける本当の戦略と言えるでしょう。


プレゼンスの確保(Share of Voice戦略)
また、ターゲティングと並んで重要なのが“情報接触量”です。
どれだけ良いターゲット設定があっても、相手に伝わらなければ意味がありません。
適切なターゲティングと活動量の掛け算によって、初めて競争優位が生まれます。


つまり、医薬品市場における競争優位とは、
製品の差別化ではなく、「どこで(Where・Who)」×「どれだけ(How much)」を的確に設計し、
その戦略に基づいてリソースを集中させることに他なりません。

この構造を理解し、戦略的に動く者だけが、同質化市場という厳しい舞台でも一歩先を行くことができるのです。