あるところに、靴のセールスとして新市場を開拓するために二人のセールスマンが派遣されました。彼らが到着した国では、誰も靴を履いていません。
最初のセールスマンは状況を見てすぐに本社に報告しました。「誰も靴を履いていません。売れません。」一方、もう一人のセールスマンはこう報告しました。「誰も靴を履いていません。市場には大きなチャンスが広がっています!」
この寓話は、まさに市場を見る視点の違いを表しています。同じ状況でも、可能性を見つけるか否かで結果は大きく異なります。この寓話を医療業界に置き換えると、製薬企業が直面している健康格差の問題も同様です。健康格差が広がっている現場では、企業はそれを課題とみなすのか、それとも新たな市場、つまりブルーオーシャンとして見るのかが重要です。
健康格差に関する現実のデータ
現実世界に目を向けると、健康格差はグローバルで重大な問題となっています。世界保健機関(WHO)によると、経済的、地域的、社会的要因により、多くの人々が基本的な医療サービスにアクセスできていません。たとえば、低・中所得国では、約10億人が基本的なヘルスケアサービスを受けられない状況にあり、予防可能な病気で命を落としている人々も少なくありません。
さらに、製薬企業がこの問題に向き合わなければならない理由を具体的なデータで見ると、例えば、以下のような統計があります。
- 健康格差に対する投資状況: 50%以上の医療提供者が、年間25万ドル未満の予算しか健康格差の解消に投じていません。これに対して、製薬企業の約22%が年間500万ドル以上を投資しています。
- データの不満: 製薬企業の39%が、健康格差に関連したデータ収集プロセスに不満を持っています。データがなければ、どの市場が最も支援を必要としているのか特定できないため、適切な解決策を提供することが難しいのです。
このような状況を見ると、健康格差は確かに課題ですが、同時に「誰も靴を履いていない国」に似た新たなビジネスチャンスが広がっていることもわかります。
製薬企業にとってのブルーオーシャン戦略
健康格差が広がっている市場をブルーオーシャンと捉えることで、製薬企業は競争の激しい既存市場とは異なる新たな価値を提供できます。以下は、その具体的な戦略の方向性です。
- 未開拓市場のアプローチ
医療アクセスが不十分な地域や社会層は、製薬企業にとってまだ手が届いていない大規模な市場です。この層に医薬品や医療サービスを提供することは、まさにブルーオーシャン戦略の実践です。適切な価格設定や現地のニーズに応じた製品開発を行うことで、持続可能な成長を目指せます。 - 新たなビジネスモデルの導入
健康格差の解消には、従来のビジネスモデルだけでは不十分です。テクノロジーを活用した遠隔医療、モバイルヘルスケアアプリ、または低コストで持続可能な薬品供給モデルなど、イノベーションを取り入れたビジネスモデルが求められています。これにより、製薬企業は社会貢献をしながらもビジネス機会を拡大できます。 - CSRとブランド価値の向上
健康格差の解消に積極的に取り組む企業は、単なるビジネスの成功だけでなく、社会的責任を果たす企業としての評判を高めることができます。CSR活動の一環として、低所得層や医療アクセスが限られている地域への支援を行うことで、社会的に高い評価を受け、ブランド価値を向上させることが可能です。
課題からチャンスへ
健康格差を課題として捉えるのではなく、新たな市場機会、つまりブルーオーシャンとして見ることは、製薬企業にとって大きな可能性を秘めています。まだ誰も靴を履いていない国で「売れない」と思うのではなく、「全員に靴を提供できる」と捉える視点が、これからの製薬業界に必要です。健康格差の問題に向き合い、その解消を図ることは、企業の持続的成長の一歩です。