分散型社会の幻想と、ベキ分布化する市場の現実―

SNSで話題の商品を買い、レビュー評価の高いレストランを予約し、検索結果の上位に表示されたサービスを選ぶ。こうした日常的な購買行動は、一見すると「自分の意思で選んでいる」ように感じられます。しかし、実際には私たちの選択肢は、目にする情報によって巧妙に誘導されていることが少なくありません。

本来であれば、顧客がそれぞれの価値観やニーズに基づいて判断していれば、企業の売上やシェアの分布はランダムに近く、特定の企業に売上が集中することは起こりにくいはずです。しかし現実の市場では、一部の企業に売上が極端に集中する「ベキ分布」的な構造が支配的です。

このような集中が生まれる背景には、「情報の非対称性」と「ネットワーク効果」に加え、企業の持つ経営資源の格差が大きく影響しています。

検索エンジンのアルゴリズム対策、広告の大量出稿、レビュー管理、SNSでの話題化、インフルエンサー施策など、顧客の選択を形成する要素は非常に多岐にわたります。こうした施策を戦略的に、かつ継続的に実施するには、多くのリソースが不可欠です。

結果的に、これらを実行できるのは人材・資金・情報・時間という経営資源に恵まれた大企業が中心となり、情報環境そのものが大手企業に有利に構築されていきます。そして一度認知・注目を集めた企業や商品は、「人気が人気を呼ぶ」構造の中でさらに売上を伸ばしていきます。

このようにして、顧客が自由に選んでいるように見えて、実際には資源格差によって形成された情報の中から選ばされているという状況が生まれます。こうして市場は「勝者総取り(winner-takes-all)」の構造へと傾き、上位企業がより強く、下位企業が淘汰されやすい非対称な構造が加速していきます。

一方で、どれだけ優れた製品やサービスであっても、資源が限られていて情報として届かなければ、顧客に“選ばれる機会”すら与えられません。私たちの目の前には多様な選択肢が存在しているように見えて、実際にはレコメンドや広告が設計した“限定された自由”の中で選んでいるにすぎないのです。

今後、こうした構造はさらに進行していきます。AIやレコメンドは、私たちの過去の選好や行動を学習し、どんどん“私らしい選択”を代行してくれます。ですが、それは裏を返せば、「思考の余白」や「未知の出会い」を失っていくことでもあります。

消費者が主体性を失い、選択を自動化していけば、市場は効率化され、企業側にとっては「読みやすい消費者」が増えるという意味で都合の良い未来がやってきます。しかしそれは、文化や多様性、創造性を蝕む未来でもあるのです。

企業は、選ばれる仕組みをつくると同時に、「選ぶ力」を育てる環境づくりにも責任を持つべきです。そして私たち一人ひとりも、「自分で選ぶこと」を放棄せず、時に不便や迷いを引き受けながら、あえて立ち止まって考えることの価値を見直す必要があるのではないでしょうか。