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平均を前提にした統計が揺らぎ始め、いま研究の世界では“次の問い”が主役になりつつあります。そのリスクは誰に強く現れ、なぜそうなるのか。喫煙と肺がんの研究は、疫学が「喫煙は肺がんリスクを高める」という因果を社会に示した代表例です。しかし同時に、その成果はしばしば「喫煙者は非喫煙者よりリスクが高い」という集団平均の結論に収束し、個人差の説明は後景に追いやられてきました。
ここで鍵になるのが、分布構造を捉えるDSA(Distributional Structure Analysis)と、因果の道筋を整理するDAG(Directed Acyclic Graph)です。DSAは、平均値の陰で見えなくなる二極化や裾の厚さ、特定層への集中といった“リスクの形”を可視化し、「誰が危ないのか」を高解像度で浮かび上がらせます。一方DAGは、交絡や媒介、選択バイアスを区別しながら因果経路を設計図として描き、「なぜそうなるのか」「どこを断てば介入になるのか」を説明可能にします。
この組み合わせがもたらすのは、単なる“効果の立証”からの卒業です。リスクが集団に一様に広がるという前提を外し、脆弱な層を優先的に守るための判断材料と、介入点を特定するための因果の地図を提示できる。統計は「大雑把な一般化の道具」ではなく、「誰に何が起き、なぜ起きるのか」を扱う意思決定科学へ、その役割を大きく変え始めています。
