ブランディングは“ひとつの時代”を終えつつある

かつて、日本のカルチャーシーンでは小室ファミリーが音楽界を席巻し、安室奈美恵は、ニーハイブーツにミニスカートを身にまとったアムラーと呼ばれるコギャル孫ギャルを生み出し、渋谷109でセシルマクビーの服を買い、サマンサタバサのバッグを誇らしげにぶら下げ、大量発生した読者モデルはタレント化し、みんなで同じ振り付けでパラパラを踊り、ブランドアイテムは若者にとっての自己表現であり、ステータスシンボルでもありました。

しかし今、街を見渡してもロゴの大きなバッグや服を身に着けた若者の姿はほとんど見かけません。代わって目にするのは、ユニクロやGU、無印良品といったシンプルかつ実用性重視の「量産型」ブランドです。

装飾的なブランドから、実用性と機能性へ。

グッチやルイビトンに象徴されるような「ブランドであること自体が価値だった時代」は息をひそめ、サマンサタバサはスーツ専門店のコナカの子会社として新たなフェーズに移行しています。

このような変化の背景には、消費における価値観の多様化、SNSによる情報取得の多チャンネル化、そして「所有」から「共感」や「体験」への志向の変化が挙げられます。ブランドが提供する“アイコン的価値”は、今やそれ単体では力を持たず、「自分の価値観やライフスタイルと響き合うかどうか」がブランド選びの決定要因になっているのです。


個別最適化がもたらす、ブランド物語の断片化

ブランディングとは本来、マスメディアを通じて「このブランドは○○である」という価値や世界観を社会全体に浸透させる企業戦略でした。多くの人々に一貫したメッセージを届けることで、「共通のブランドイメージ」や「象徴的な存在感」を育てる、伝統的な“マス・ブランディング”の在り方です。

しかし今日では、AIとビッグデータによって、顧客から個客一人ひとりに最適化された情報提供が当たり前となっています。タイミングも表現もチャネルもカスタマイズされ、同じブランドであっても、顧客価値は十人十色となるのです。

この“個別最適化”が進むことで、以下のような課題が生じています。

  • ブランド体験の断片化:顧客ごとに異なる接点・メッセージに触れることで、「ブランド全体」としての物語が希薄化する
  • 象徴性の喪失:かつての「Mac book」や「六本木ヒルズ」のように、誰もが共有できるブランド記号が成立しにくくなる
  • 矛盾する期待:価格、品質、社会貢献など、顧客の多様な要求がしばしば相反し、すべてに応えることが困難になる

つまり、多様性に応えるほどにブランドの軸が揺らぎ、「何者なのか」が曖昧になっていくというジレンマに直面しているのです。


トレンドが生まれにくくなった理由

マーケティングやブランディングにおいて、「トレンド」は人々の関心や行動が同じ方向へ動く“社会的なうねり”を意味します。かつてはテレビCM、雑誌、店頭プロモーションが同時多発的に機能し、「皆が知っていて、話題にし、同じ行動をとる」という状況が自然と生まれていました。

しかし、現代の情報環境では一人ひとりが異なるコンテンツ、異なるタイミング、異なる文脈でブランドに触れています。共通の文脈が形成されにくくなり、「いま、これが流行ってるらしいよ」と言っても、隣の人はまったく知らない――という状況が日常です。

つまり、トレンドが生まれる前提条件自体が崩れつつあり、ブランドが“語られる力”を持ちにくくなっているのです。


そして、べき乗化する市場:「勝者総取り」が加速する

このような分散型の消費環境が行き着く先が、べき乗分布(パワー・ロー)です。これは、「ごく一部のブランドが売上・人気・シェアの大部分を占め、その他多数は存在すら認識されない」という、非常に偏った構造です。

AIアルゴリズムによるレコメンドもこの構造を加速させます。なぜなら、人気のあるものほど表示され、さらに売れることで、“人気のあるものがより人気になる”スパイラルが起きるからです。

  • トップブランドが市場の大半を占める
  • 2位以下は急速にシェアを失う
  • 中小ブランドはそもそも“見つけてもらえない”

個別最適化が進むほど、皮肉にも市場は“集中”していきます。これは矛盾ではなく、アルゴリズムと人間心理の合理的な帰結だといえるでしょう。


経営資源の差が、そのまま競争構造の差になる

このようなWinner Takes All構造のなかで、全体市場をターゲットにできるのは、広告費、データインフラ、商品開発、流通チャネルなどすべての経営資源を網羅できる“大企業=市場内強者”のみです。

一方、中小企業や新興ブランドは:

  • 全体市場を狙えば確実に資源が分散し
  • トレンドを起こすほどの影響力もなく
  • 個別最適化だけではブランドの「象徴性」が築けない

という“三重苦”に直面します。つまり、経営資源の差が、そのまま勝者と敗者の明暗を分ける時代に入っているのです。


「応える価値を選ぶ」ことがブランド戦略の核心に

このように、従来型のマス・ブランディングが機能しにくくなった現代において、ブランド戦略の本質はこう変わりつつあります。

誰にでも同じことを言う”のではなく、“誰にでも意味のある価値を語れるブランド”であること。

そして、その価値を「どの顧客に、どの文脈で、どのように伝えるか」という文脈対応力=翻訳力が、これからのブランドの生命線になります。

そのためには、

  • 自社がどの市場で戦うのか
  • どの顧客に勝つべきか
  • どこに経営資源を集中すべきか

といった判断を、定量的かつ戦略的に行えるフレームワークが不可欠です。まさにそのニーズに応えるのが、DXS Stratify®のような「競争力とポジショニングを可視化する分析ツール」です。


「すべてに応える時代」だからこそ、「応える価値を選ぶこと」が、ブランドにとって最大の戦略的意思決定となる。
そして、それに気付き、いち早く競争優位を築いた者が勝ち残るでしょう。