〜フェルミ推定とTAM・SAM・SOMで“どのくらい売れるか”を見極める〜

「がん患者にこういうツールがあれば便利だと思う」「医師がこういう機能を求めていた」 現場の声に触れると、つい「これは売れそうだ!」と思い即行動したくなるものです。しかし本当に重要なのは、行動を起こす前に、「どのくらい売れるのか?」という問いに、構造的かつ定量的に答えられる必要があります。

ニーズは、確かに事業のチャンスです。でも、それだけでは収益化にはなりません。
ここで役立つのが、フェルミ推定とTAM・SAM・SOMを活用した、現実的な市場規模の算定手法です。


フェルミ推定:常識的な掛け算で全体感をつかむ

たとえば「化学療法中の副作用モニタリングアプリ」を構想したとします。
このとき、ざっくりとした仮定で対象母数を割り出します。

  • 年間のがん新規患者数:約100万人
  • うち外来で抗がん剤治療を受ける人:約40万人
  • そのうち副作用の自己管理に課題を感じる人:約50%

100万人 × 40% × 50% = 約20万人

この20万人が、この製品の対象になり得る全体像(母数)です。
これが、フェルミ推定によって導かれる「市場の兆し」です。


■ TAM:Total Addressable Market(理論上の最大市場)

この20万人が、製品・サービスが理論的に届けられる最大市場(TAM)となります。
まだこの時点では、「誰にでも売れる」と仮定しています。


■ SAM:Serviceable Available Market(提供可能な市場)

次に、「本当にサービスを提供できるのは誰か?」という現実的な制約を加味します。

  • 一部の患者はスマホ未所有
  • 高齢患者層は操作に不慣れ
  • 通院先の病院がITに消極的

これらを考慮し、対象のうち30%が実際に利用可能な層(SAM)と見れば、

20万人 × 30% = 6万人


■ SOM:Serviceable Obtainable Market(当面獲得できる市場)

そして、さらに現実的な自社の到達可能性を見積もるのがSOMです。

  • 自社の営業網がカバーできるのは関東圏中心
  • がん拠点病院との連携が未整備
  • 実績・ブランドがまだ浸透していない

こうした状況を加味し、SAMのうち10%を獲得可能市場(SOM)と見積もると、

6万人 × 10% = 6,000人

仮にこのアプリの価格が月額1,000円(年間1万2,000円)だとすると:

6,000人 × 12,000円 = 年間7,200万円の売上ポテンシャル


数字で示せなければ、投資も、判断も、始まらない

「これ便利そう!」だけで走り出すのは危険です。
「誰に、どれくらい、いくらで売れるのか?」を数式で可視化できてこそ、事業としての実行性が見えてきます。

そのためには:

  • フェルミ推定で全体像をつかむ
  • TAMで可能性を最大化し、SAMで提供力を冷静に見積もり、SOMで現実的な収益性を算定する

という段階的な市場評価が不可欠です。


「ニーズに熱く、数字に冷静に」
それがビジネスを成功に導く第一歩です。