お米券の支給をめぐる議論が活発化していますが、論点の多くは「現金支給のほうが合理的ではないか」という方向に流れています。しかし、この議論は手段以前に目的設定を見失っているように見受けられます。
この問題を整理するうえで有効なのが、STP(Segmentation・Targeting・Positioning)の視点です。
まずセグメンテーションは、物価高という広範な社会課題です。そのうえで、今回の政策が本来狙うべきターゲティングは、「高止まりが続くコメ価格」という極めて具体的かつ限定的な政策課題であるはずです。
そしてポジショニングは明快です。対象は「米を食べたいにもかかわらず、価格上昇によって我慢を強いられている国民」です。
ここで重要なのは、コメ価格対策は象徴政策ではないという点です。特定の商品、特定の支出行動に対してピンポイントに介入する、きわめて具体的な施策領域です。したがって、手段は目的と強く結びついている必要があります。
現金支給は確かに汎用性が高く、生活全般を下支えする手段です。しかしそれは「米価対策」ではなく、「物価上昇全体に対する生活支援策」です。STPの観点で言えば、ターゲットを意図的にぼかす手段であり、目的が異なります。
さらに注目すべきは政治的な文脈です。現金支給を前面に出したこれまでの対応については、直近の選挙において与党が議席数を減らす結果となり、事実上、国民の審判が下されています。「現金を配れば理解される」という発想そのものが、必ずしも支持されなかったという現実です。
それにもかかわらず、再び現金支給に議論が回帰していく様子は、戦略不在の状態に酷似しています。目的が曖昧なまま手段論に入れば、議論は拡散し、評価軸も成果指標も定まりません。これは政策に限らず、企業経営や事業戦略でも同様です。 戦略とは、限られた資源を誰に、何のために、どのように使うかを決めることです。STPを欠いた意思決定は、善意であっても成果を生まない。
お米券か現金かという問いの前に、いま改めて問うべきなのは、「この政策は何を解決するためのものなのか」という一点ではないでしょうか。
