これまで製薬企業において、本社部門からの営業支援と営業部門の両方に携わる機会がありました。その経験の中で特に感じたのが、「目的が不明確なまま手段だけが一人歩きしている」ことが多いといことです。多くの企業では、営業活動を定量的に管理しようとKPI(重要業績評価指標)を設定します。しかし、そのKPIが具体的な目的や戦略に紐づいていなければ、ただの数字合わせに終始してしまい、本来の成果には繋がらないばかりか、営業現場との乖離を生む原因にもなっています。
KPIの一人歩きがもたらす問題
KPI自体は、営業活動を定量的に把握し、改善点を見出すための有用なツールです。しかし、以下のような状況では、むしろ逆効果になる場合があります:
- 目的の不明確さ
KPIは戦略目標を達成するための手段であるべきですが、戦略自体が不明確な場合、活動の優先順位が曖昧になります。その結果、現場は「とにかく数字を達成する」ことに追われ、意味のある行動が失われるリスクがあります。 - 現場との乖離
本社部門が設定したKPIが、現場の実態や顧客のニーズを十分に反映していない場合、現場の営業担当者にとっては非現実的な目標となり、やらされ感を生む原因になります。特に製薬業界では、顧客の行動変容プロセスの変動が大きく、観察により柔軟な対応が求められますが、単純な数値目標では現場の努力を正当に評価できないことが多くなります。 - マイクロマネジメントの増加
KPIが独り歩きすると、数字の進捗ばかりに注目が集まり、本社部門が現場を細かく管理しようとするマイクロマネジメントに繋がります。これにより、現場の自主性が損なわれ、顧客への視点が失われることも少なくありません。
市場縮小期における戦略の必要性
市場が成長している時期であれば、手段が目的から多少ずれていても、大きな問題にはなりません。しかし、市場縮小期においては状況が大きく変わります。競争がゼロサムゲーム化する中で、限られたリソースを効率的に配分し、戦略的な意思決定を行うことが不可欠です。
具体的には、以下のような変革が必要です:
- 戦略とKPIの連動:全体戦略を明確化し、それに基づいたKPIを設定することで、活動と成果を一致させる。
- 現場の声を反映:KPIを設定する際には、現場の実態や顧客のニーズを取り入れ、現実的かつ意義のある目標を設定する。
- 結果ではなくプロセスを評価:短期的な数字に固執せず、長期的な成果に繋がるプロセスを評価する仕組みを構築する。
例えば、マルチチャネルやオムニチャネルの推進において、本来であれば、顧客が最も情報にリーチしやすいチャネルを自由に選択できることが、個別最適化の目的であるはずです。しかし実際には、それらは製薬企業が顧客に情報を一方的に提供するための手段(エンクロー)と化しています。さらに、KPIで数値評価を行うことが優先されるため、顧客の個別最適化ではなく、営業担当者の活動を測る指標として利用されているのが現状です。
おわりに
目的が不明確なままKPIだけが独り歩きすると、現場と本社部門の信頼関係が損なわれ、最終的には企業全体の競争力が低下する可能性があります。特に市場縮小期には、戦略とKPIを連動させ、現場の力を最大限に活用できる仕組みが求められます。
