展示会やピッチイベント、アライアンスの商談会などに参加すると、多くの企業や支援機関から前向きな反応をいただくことがあります。「とても興味があります」「社内で前向きに検討させてください」「NDAを締結して、次のステップに進みましょう」。こうした言葉を受けると、ついつい希望が膨らみ楽観的になってしまいます。

しかし、現実はどうでしょうか。

こうした返答の多くは、外交的な定型句であり、実際には何も進まないことが往々にしてあります。私たちは、こうした状態を「検討中の山」だと認識しがちですが、実態はむしろ「合意ゼロの谷」なのです。


オポチュニティの錯覚とクロージング・リスクの現実

このような状況を、「オポチュニティ(機会)の錯覚」と「クロージング(契約成立)リスクの現実」の乖離と捉えることができます。

  • オポチュニティの錯覚とは、関心表明やポジティブな言葉を、あたかも確実なビジネスチャンスであるかのように錯覚してしまうことです。
  • 一方で、クロージング・リスクの現実とは、実際には契約や出資、導入といった具体的なアクションに至らないという事実を指します。

この2つの間にあるギャップが、事業進行を見誤る最大の要因となります。


関心 ≠ 実行、建前 ≠ 意思決定、ポジティブ ≠ コミットメント

こうした場面で大切なことは、「言葉」ではなく「行動」を見ることです。

以下のような問いかけを通じて、冷静に見極める必要があります。

  • この相手は、来週中に契約書にサインする可能性がありますか?
  • 私たちが支出せずに、相手側が具体的な行動を起こしてくれる状況でしょうか?
  • もし資金が尽きた場合、この相手は実際に支援してくれるでしょうか?

このような問いに「いいえ」が並ぶようであれば、それは検討者であっても支援者ではないと判断すべきです。


合意ゼロの谷を越えるために必要な視点

事業を前に進めるためには、以下のような方針転換が求められます。

  1. 実行フェーズに入っている相手(Type A)を見極め、優先して交渉・フォローすること
  2. PoC契約など、最小実行単位(Minimum Executable Unit)を設定し、具体的な成果を早期に獲得すること
  3. 補助金や助成金、CVC、業界外からの資金調達、OEMなど、現金流入に直結するアクションを優先すること

まとめ

「検討しています」「とても面白いですね」という言葉に惑わされず、それが具体的な契約や支援につながるのかという視点で、すべての関係先を再評価することが重要です。

関心の山ではなく、合意の線でビジネスは動きます。

熱意や期待に支えられるフェーズを抜け、いま必要なのは、冷静で戦略的な判断です。
「合意ゼロの谷」を越えるために、私たちはどこに時間とリソースを集中させるべきか。
その答えを明確に持つことこそが、次の一歩に進むためのハードルを越えることになります。