伊藤忠商事は健診データ活用した製薬向けマーケティング支援を開始しました。製薬企業は自社の製品を処方されたかどうかより、まず対象となるCKDの患者の市場拡大にKPIとして置いているそうです。果たしてこの戦略は製薬企業に利益をもたらすでしょうか?
売上を増やすために多くの企業が市場拡大に多額の投資を行います。しかし、その拡大が結果的に競合を強化することにつながるとしたらどうでしょうか?市場を成長させることは必ずしも持続可能な競争優位性を生むわけではなく、むしろ企業のポジションを弱める可能性があります。ここでは、市場拡大に伴う主なリスクを検討します。
1. 市場拡大が市場シェアの低下を招く
市場が拡大すると、全体の売上が増加する可能性があります。しかし、すべての企業が均等に利益を得るわけではありません。競争力のある企業が新たな機会をより効果的に活用すれば、市場シェアの低下につながる可能性があります。

2. コストをかけて競合を強化するリスク
企業が疾患啓発や教育、顧客獲得のための施策を実施することで、市場全体が成長します。しかし、市場シェアの大きい競合は、その拡大による恩恵を追加コストなしで享受することができます。
3. 競争の激化
市場の成長は、新規参入を誘い競争を激化させる要因にもなります。既存の強力なプレイヤーがさらに市場での地位を強化し、新規参入者が増加することで、利益率が低下するリスクが高まります。
4. 短期的な売上増 vs. 長期的な競争力
市場拡大により短期的な売上増が期待できても、それが長期的な競争優位性につながるとは限りません。市場シェアの低下が続けば、売上増加が一時的なものにとどまり、持続可能な成長を達成できなくなる可能性があります。
5. 市場データへの不平等なアクセス
業界によっては、特定の企業が市場データを独占的に活用できる場合があります。市場拡大の施策が外部のデータ提供者やパートナーシップを伴う場合、競合も同じデータにアクセスできるリスクがあり、差別化が困難になります。
6. 競争要因の制御不能な増加
市場拡大は単に新しい需要を生み出すだけではなく、規制の変更、処方習慣の変化、競合の動きなど、企業が直接コントロールできない要因を増やす可能性があります。戦略的なポジショニングが不十分な場合、競争環境に対応することが困難になります。
7. 市場シェアを取り戻すコストの増大
市場シェアを失うのは簡単ですが、それを取り戻すのは非常に困難です。一度競合が顧客の信頼を獲得すると、奪い返すためのコストは飛躍的に増大します。市場拡大の恩恵を享受できなかった企業は、後から高額な顧客獲得コストを負担することになります。
結論: 成長だけでは不十分
マーケットシェア理論では、拡大した市場は参入者のシェア値に応じて細分配されます。特に市場ライフサイクルが成熟期から衰退期向かうフェーズではより顕著です。
市場拡大は売上を押し上げる手段の一つですが、企業はそれによって真の競争優位を確保できているかどうかを慎重に評価する必要があります。成長そのものが成功を決定づけるわけではなく、その成長が 持続可能な市場支配力 につながるかどうかが重要です。しっかりとした戦略がなければ、市場拡大は単に「敵に塩を送る」行為に終わるかもしれません。
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