市場が成長期にあるとき、企業は激しい競争の中で自社のシェアを拡大しようとし、ブロックバスター戦略やSOV(Share of Voice)拡大に注力します。しかし、市場が縮小し競争がさらに激化するゼロサムゲームの状況になると、こうした戦略では持続可能な成長を実現することが難しくなります。この状況下で、製薬企業は競争だけに依存するビジネスモデルから、他社との協力による新たな戦略へとシフトしています。ここでは、ゲーム理論やランチェスターの法則をもとに、この戦略転換を解説します。
ゲーム理論の視点:協力ゲームへの移行
市場が縮小する中で、ゲーム理論の協力ゲームがますます重要になってきています。競争を前提とした非協力ゲームでは、各企業が自社の利益を最大化するために互いに競争します。しかし、縮小市場においては、成長余地が限られているため、単独での競争は非効率になりがちです。その結果、他社と協力し、市場全体の利益を最大化する協力ゲームが有効な戦略となります。
製薬業界では、単独の薬剤だけでなく、他社の薬剤と併用することでより高い治療効果を得る併用療法が普及してきています。これは、競争相手との協力によって全体の治療効果を高め、結果的に全ての企業が利益を得る形を目指す協力ゲームの典型例です。企業同士が協力することで、より広範な患者にアプローチでき、限られた市場の中で最大限の成果を上げることが可能になります。
ランチェスターの法則による競争の最適化
また、ランチェスターの法則も縮小市場における競争戦略として重要です。この法則は、限られた資源をいかに効果的に配分し、競争に勝つかを示すものです。特に市場シェアが小さい企業にとって、競争相手が手薄な領域に集中することで勝利を得る「弱者の戦略」が効果的です。一方、強者の企業は、全方位的な攻勢をかけ、競争相手のリソースを消耗させる「強者の戦略」を取るべきです。
製薬企業は、この法則に基づき、競争戦略を調整しながら協力関係を構築しています。ブロックバスター戦略の限界を感じた企業は、適応症の拡大や他社製品との併用を推進し、競争を回避しながらも市場シェアを効果的に確保する戦略に転換しています。例えば、抗がん剤市場では、他社の薬剤と併用することで単独での限界を克服し、治療効果を高めています。
ブロックバスター戦略から協力戦略へのシフト
従来のブロックバスター戦略は、一製品の売上に大きく依存し、SOV拡大に注力するものでした。しかし、市場が成熟し縮小するにつれて、製薬企業は他社との協力による利益の拡大を目指す戦略にシフトしています。適応症の拡大や併用療法は、単一の製品に依存するリスクを分散しつつ、市場のシェアを維持・拡大する手段として重要です。
このように、ゲーム理論やランチェスターの法則を活用した競争から協力へのシフトは、製薬業界における新たな戦略モデルとなっています。競争が激化し続ける市場で、企業は単独での成功を追求するよりも、協力によって市場全体の利益を最大化し、その中で自社のシェアを確保することが、持続可能な成長につながるのです。
まとめ
市場が縮小し、競争が激化する中で、製薬企業が競争から協力へと戦略をシフトする理由は明確です。ゲーム理論の協力ゲームとランチェスターの法則を活用することで、企業は限られた市場の中で最適な戦略を見つけ出し、競争を回避しながらも利益を最大化することが可能です。