企業が市場で優位に立つための価格戦略である、低価格戦略とコストリーダーシップ戦略は、価格面での競争力を高めるという共通の目標を持っています。しかし、これらの戦略は同じ「価格競争」でありながらも、そのアプローチや効果に大きな違いがあります。さらに、どちらの戦略を選ぶべきかは、市場のライフサイクルによっても大きく異なります。今回は、これらの戦略の違いや選択のポイントに加え、市場の拡大期と縮小期という視点から、どのように戦略を決定すべきかを考えてみましょう。
低価格戦略とコストリーダーシップ戦略の違い
低価格戦略は、競合他社よりも安い価格で商品やサービスを提供することで市場シェアを獲得することを目的とした戦略です。シンプルに価格を下げることで顧客を引き付けますが、過度な価格競争に巻き込まれた際には利益が圧迫されるリスクがあります。
一方、コストリーダーシップ戦略は、製品やサービスの提供にかかるコストを他社よりも低く抑えることで、長期的に低価格を提供しながらも利益を確保する戦略です。規模の経済や生産効率の向上、技術革新などを活用し、競争力を維持します。こちらは単に価格を下げるだけでなく、内部のコスト構造を最適化することで持続的な競争優位を狙います。
市場の拡大期における戦略選択
市場の拡大期、つまり需要が増加し、すべてのプレイヤーが成長を見込める状況では、低価格戦略は非常に有効です。特に新規参入企業や小規模な企業にとって、拡大期はシェアを獲得する絶好の機会です。この段階では、利益率が低くても低価格で市場に参入し、早期に顧客基盤を築くことが重要です。
一方で、大企業や既存のプレイヤーは、コストリーダーシップ戦略を採用することで、拡大期においても利益を確保しながら競争力を維持できます。大規模な生産設備や効率的なサプライチェーンを持つ企業は、拡大期でも低コストを維持しながら、競争に勝ち抜くことができます。
市場の縮小期における戦略選択
市場が縮小期に入ると、状況は一変します。需要が減少し、競争が激化する中で、低価格戦略は持続が難しくなることがあります。縮小期では、単に価格を下げるだけでは利益を確保するのが困難で、特にコスト管理が不十分な企業にとってはリスクが高まります。
このような環境では、コストリーダーシップ戦略が非常に重要になります。縮小期には、多くの企業が価格競争に巻き込まれる中、コスト構造をしっかりと管理し、効率的に資源を投入できる企業が生き残ります。競争がゼロサムゲームに近づくため、資源を効率的に使い、低コストで商品を提供できる企業が勝ち残りやすくなります。
どの企業がどちらの戦略を選ぶべきか?
市場の拡大期、縮小期の要素を踏まえた上で、企業はどちらの戦略を選ぶべきか検討する必要があります。
- 低価格戦略を選ぶべき企業: 拡大期の市場においては、新規参入企業や資源が限られている中小企業が低価格戦略を採用することで、初期のシェアを迅速に獲得できます。しかし、縮小期にはこの戦略はリスクが高まり、利益が圧迫される可能性があるため、注意が必要です。
- コストリーダーシップ戦略を選ぶべき企業: 拡大期にも縮小期にも有効な戦略ですが、特に縮小期には大企業や効率的なコスト構造を持つ企業がこの戦略を採用すべきです。市場が縮小しても、コストリーダーシップを発揮することで競争優位を確保しやすくなります。
まとめ 現在のような市場縮小期では、競争がゼロサムゲームに近づくため、経営資源に勝る企業によるコストリーダーシップ戦略が競争優位性を持ち、経営資源に劣る企業の低価格戦略は自らの首をしめかねません。したがって、十分なコスト管理ができない企業にとっては、無理に低価格戦略を採用するよりも、差別化戦略やニッチ市場での独自の価値提供を考えるべきといえます。