現在、大手製薬企業を中心にプライマリー領域(一般診療やクリニックでの医薬品使用が多い領域)における縮小と、それに伴う人員削減が進行しています。特に、抗がん剤や希少疾患治療薬といった高度専門医療を対象とする製品にシフトする製薬企業において、病院以外のセグメントに対する営業活動が手薄になる傾向があります。このような変化は、医薬品卸にとって新たなビジネス機会をもたらす可能性が高く、以下のような形で製薬企業との連携を強化することで、持続的な成長を目指すことができるかもしれません。
大手製薬企業の戦略転換に伴うギャップを埋める機会
プライマリー領域における製薬企業の縮小により、病院以外のクリニックや一般診療所へのアプローチが薄れつつあります。これにより、従来、製薬企業が自ら担っていた営業活動の一部が手薄になることが懸念されています。ここで、医薬品卸は既存の営業ネットワークを活かし、製薬企業の代わりにクリニックや診療所への営業活動を請け負う役割を果たすことができます。
製薬企業は高価格帯の専門医療向け製品にリソースを集中する一方、プライマリー領域における製品は卸業者がクリニック市場をカバーすることで、販売チャネルの補完と効率化を図ることができます。これにより、製薬企業は自社のリソースを戦略的に集中させつつ、卸業者は新たな収益源を確保するという相互にメリットのある関係が構築できる可能性があります。
卸業者が持つクリニック市場での優位性
医薬品卸は、クリニックや診療所との強固な関係を長年にわたり築いてきたという強みがあります。日常的にMS(医薬品卸売営業担当者)が訪問し、現場でのニーズを把握し、迅速に対応する能力を持っています。こうした関係性をベースに、卸業者がクリニック市場での営業活動を拡大することで、製薬企業が提供できない価値を提供することができます。
また、クリニック市場は、病院市場とは異なるニーズを持ち、個別化医療や地域密着型のケアが重要視される傾向があります。このセグメントに対して、卸業者は製品の詳細な情報提供や患者ニーズに応じたアドバイスを提供できる立場にあります。
医薬品販売データの活用によるターゲティング精度の向上
卸業者が製薬企業から病院以外の営業活動を請け負う際、データドリブンな営業活動が非常に重要になります。医薬品販売データの活用により、クリニック市場におけるセグメントごとのニーズや競争環境を可視化し、製薬企業が病院に集中している間も、クリニック市場を効果的にカバーすることが可能です。
医薬品販売データから、市場のセグメント化や競合分析を行い、ターゲットとなるクリニックに最も適した製品や営業活動を提案することで、限られたリソースを最大限に活用することができます。さらに、活動成果を定量的に評価・報告することで、製薬企業に対して営業活動の効果を明確に示すことが可能となり、信頼を築く要素にもなります。
考慮すべき課題
一方で、このモデルを実行に移す際には、いくつかの課題も存在します。
- 利益分配の交渉
製薬企業との間で、営業活動を請け負うための利益分配の仕組みを明確にする必要があります。これは、単純なアロワンスの代替ではなく、卸業者がどの程度の役割を果たすかに基づいた適切な報酬体系を構築する必要があります。 - リソースの最適配分
MSや営業スタッフがクリニック市場に集中することで、他の市場への影響を最小限に抑えるようなリソース配分が必要です。特に、病院向けの製品が卸業者を介さない場合、病院市場での営業活動とクリニック市場での営業活動のバランスを取ることが課題となる可能性があります。
まとめ
大手製薬企業がプライマリー領域の縮小と人員削減を進める中、医薬品卸がクリニック市場での営業活動を請け負うことは、双方にとって大きなメリットがあります。製薬企業の戦略転換に伴うギャップを埋める役割を果たし、医薬品卸は医薬品販売データを活用し、ターゲティング精度と営業活動の効果を最大化することが可能です。こうした新たな取り組みは、卸業者にとっての新たな成長機会であり、製薬企業とのパートナーシップを強化する重要なステップとなりうるのではないでしょうか。