製薬ビジネスにおいては、市場のルールそのものが外部要因によって大きく変化するという特殊なリスクが存在します。これが、いわゆる「制度変更リスク」です。そしてこのリスクこそが、製薬業界でモヤモヤが慢性化する最大の原因の一つであるといえます。
一般消費財とは異なり、製薬業界では製品の価格が国の薬価制度によって決定されます。どれほど自社の製品が市場で評価されても、価格交渉の相手は市場ではなく、厚生労働省なのです。さらに、薬価は2年ごとに見直され、売上が拡大すると薬価が下がる「市場拡大再算定」の仕組みも存在します。つまり、努力がそのまま成果に繋がるのではなく、逆に成功が価格下落を招くという、非常に厳しい構造に置かれているのです。
このような制度依存型のビジネス環境では、未来を予測するための従来型の動的分析、つまり「過去データからの傾向予測」には限界があります。制度変更は非連続的かつ人為的に発生するため、AIによるトレンド分析や売上予測モデルでは対応できないのです。では、こうした不確実性にどう立ち向かうべきでしょうか。答えは、静的分析にあります。
静的分析とは、現時点での市場構造、競争環境、自社のポジショニングを冷静に把握し、「どこで戦うか」「どこにリソースを集中すべきか」を論理的に決めるための基盤です。流動的な未来を追いかけるのではなく、今この瞬間の戦場を正しく認識する。それによって、仮に制度が変わったとしても、どのような影響が及び、どこを守り、どこを切り替えるべきかを、迅速かつ柔軟に判断できるようになります。
静的分析を欠いたままでは、変化が起きた瞬間に組織は右往左往し、場当たり的な施策に追われることになります。逆に、静的分析によって「現在地」と「戦うべき領域」が明確になっていれば、変化への対応も合理的かつ戦略的に行うことができるのです。
製薬業界におけるモヤモヤを根本から解消するためには、制度に振り回されない軸を持つことが必要です。そのためには、今ここで、静的分析を戦略の中心に据え、「見えない未来」ではなく、「見える現在」に基づいて意思決定を行う習慣を組織に根付かせなければなりません。市場のルールが動く世界で生き残るために。私たちはまず、自分たちの立つ「現在地」を冷静に見極めるべきなのです。
