「AIは私たちの仕事を奪うのか?」
生成AIの登場以来、この議論は繰り返されてきました。しかし、今、世界が本当に注目しているのは、文章を書いたり画像を生成したりするAIではありません。各国が巨額の国家予算を投入し始めているのは、「フィジカルAI」と呼ばれる新しいAIです。
フィジカルAIとは何か
フィジカルAIとは、現実世界で「見て、考え、動く」AIです。
工場で製品を組み立てるロボット、物流倉庫で荷物を運ぶロボット、自動運転車、介護支援ロボット、建設機械、さらには医療現場で活躍するロボットなど、人間の身体的な作業を代替・支援するAIを指します。
生成AIが知的作業を支援するAIであるのに対し、フィジカルAIは現実世界で行動するAIと言えるでしょう。
日本は本気でフィジカルAIに投資を始めた
日本政府も、この流れを国家戦略として位置付けています。
政府は「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、2030年度までの7年間で10兆円以上の公的支援を行い、10年間で50兆円を超える官民投資、約160兆円の経済波及効果を目指しています。
さらに令和8年度予算では、「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」として3,873億円が新たに計上されました。これは、フィジカルAIの頭脳となる国産AI基盤モデルを開発するための予算です。
AI関連予算全体でも約5,000億円規模となり、その多くがフィジカルAIや基盤モデル開発へ重点配分されています。
つまり、日本はAIを「利用する国」から、「開発し、産業競争力につなげる国」へ大きく舵を切ったと言えます。
本当に仕事はなくなるのでしょうか
変化のスピードは想像以上に速いかもしれません。
これまでロボット化が難しかった作業は、人間の判断や器用さが必要だったためです。しかし、フィジカルAIは生成AIによる認識能力とロボット技術を組み合わせることで、その壁を急速に越えようとしています。
物流、製造業、建設業、介護、医療、警備など、多くの現場でAIが人と協働する時代が始まろうとしています。
これは決して遠い未来の話ではありません。
本当に失われるのは「仕事」ではなく「競争力」
私は、本当に失われるのは仕事そのものではなく、「AIを使えない人の競争力」ではないかと考えています。
かつてパソコンを使えないことが仕事の制約になったように、これからはAIを使いこなせる人とそうでない人の差が、生産性や付加価値の差として表れるでしょう。
しかも今回は、生成AIだけではありません。
現実世界で動くフィジカルAIが加わることで、その差はさらに大きくなる可能性があります。
AIを使うかどうかを議論している時間は残されているのでしょうか
現在でも、「AIを使うべきか」「AIは危険ではないか」といった議論が続いています。
もちろん、安全性や倫理、知的財産への配慮は極めて重要です。しかし、その議論を続けている間にも、世界では国家予算が投入され、企業はAIを前提とした事業へ移行し始めています。
技術革新を止めることはできません。
重要なのは、AIを排除することではなく、どのように安全に活用し、自らの競争力へ変えていくかです。
フィジカルAIは、私たちの仕事を奪うのでしょうか。
答えは、「AIそのもの」ではありません。
AIを使いこなし、生産性を高める人や企業が、使わない人や企業との差を急速に広げていく。その結果として競争力を失う人が増える可能性があります。
国家が10兆円規模の投資を決断した背景には、この変化が一時的なブームではなく、日本の産業競争力を左右する戦略そのものであるという認識があります。
AIを使うかどうかを議論する時代から、AIをどう使って価値を生み出すかを競う時代へ、私たちはすでに足を踏み入れています。
皆さんはどのように受け止めているでしょうか。
