近年、AIの進歩とともに、
- 組み合わせ最適化
- 機械学習
- 大規模データ解析
- 量子コンピュータ
への期待が高まっています。
「膨大な組み合わせを高速に計算できるなら、最適な答えは自動的に見つかるのではないか」
そう考える人も少なくありません。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。
高速化されたのは「探索」
AIや組み合わせ最適化が得意なのは、
膨大な候補の中から最適な組み合わせを探すこと
です。
例えば、
- 最適な配送ルート
- 最適な在庫配置
- 最適な広告配分
- 最適な治療予測モデル
などです。
これらは非常に重要な技術です。
しかし、忘れてはならないことがあります。
AIが高速化したのは
「探索」
であって、
「因果の発見」
ではありません。
総当たりで解析すれば因果が分かるのか
仮に100個の変数があるとします。
現在のコンピュータであれば、
- 相関行列
- 重回帰分析
- ロジスティック回帰分析
- ランダムフォレスト
- XGBoost
- ニューラルネットワーク
などを用いて、
ほぼ総当たりで解析することが可能です。
では、
その結果から
「何が原因か」
は分かるのでしょうか。
答えは、
分かりません。
相関と因果は違う
有名な例があります。
アイスクリームの売上が増えると、
溺死事故も増えます。
両者には相関があります。
しかし、
アイスクリームを禁止したからといって、
溺死事故は減りません。
本当の原因は、
気温
です。
気温が上がることで、
- アイスクリームが売れる
- 海やプールに行く人が増える
という二つの現象が同時に起きているだけです。
つまり、
「一緒に動いている」
ことと
「原因である」
ことは全く違います。
ロジスティック回帰でも同じ
医療研究では、
ロジスティック回帰分析が広く利用されています。
例えば、
ある因子のオッズ比が3倍だったとします。
すると、
その因子が原因であるかのように見えます。
しかし、
そこに年齢や重症度などの交絡因子が存在すると、
結果は大きく変わります。
ロジスティック回帰は、
投入した変数の範囲でしか調整できません。
つまり、
見えていない要因があれば、
いくら高度な解析をしても、
真の因果関係には到達できないのです。
AIも本質的には同じ
AIは驚異的な予測能力を持っています。
しかし、
AIが学習しているのは
パターン
です。
例えば、
ある患者のHbA1cを高精度で予測できたとしても、
それは
「なぜHbA1cが上昇したのか」
を説明しているわけではありません。
AIが教えてくれるのは、
「予測に役立つ特徴量」
です。
しかし、
その特徴量を操作したら結果が変わるのか、
つまり
介入可能な因果
であるかどうかは別問題です。
最適化が解くのは「与えられた問題」
組み合わせ最適化も同じです。
最適化アルゴリズムは、
与えられた条件の中で最適解を探します。
しかし、
そもそもの問題設定が間違っていたらどうでしょうか。
例えば、
「原因ではない変数」
を重要因子として組み込んでしまえば、
最適化された結果そのものが間違った方向へ向かいます。
つまり、
最適化は
問題を解く技術
であり、
問題を定義する技術ではない
のです。
因果構造を理解する必要性
ここで重要になるのが、
因果構造です。
例えば、
運動不足 → 肥満 → インスリン抵抗性 → HbA1c上昇
という構造と、
ストレス → 運動不足
ストレス → HbA1c上昇
という構造では、
介入すべき場所が全く異なります。
予測だけでは、
どちらが正しいのか分かりません。
しかし、
実際の意思決定に必要なのは、
「どこを変えれば結果が変わるのか」
という情報です。
DSA+DAGが目指すもの
DSA+DAGの視点から見ると、
AIや組み合わせ最適化は非常に強力な技術です。
しかし、
それだけでは
「なぜそうなるのか」
までは説明できません。
DSAが分布構造を捉え、
DAGが因果構造を整理することで、
初めて
- 何が重要なのか
- 何を介入すべきか
- 何が結果を生み出しているのか
を考えることができます。
その上で、
AIや組み合わせ最適化を使えばよいのです。
AI時代だからこそ問われること
AIの進歩によって、
私たちは過去にない速度でデータを処理できるようになりました。
しかし、
高速道路をどれだけ速く走れても、
目的地が間違っていれば到着する場所は間違います。
AIや組み合わせ最適化は、
高速道路を作る技術です。
一方で、
因果構造を理解することは、
地図を描く作業です。
必要なのは、
高速道路だけでも、
地図だけでもありません。
「どこへ向かうべきか」を理解した上で、「どう最短で到達するか」を考えること。
これからのデータ活用に求められるのは、予測精度の競争だけではなく、相関と因果を区別し、意思決定につながる構造理解へと踏み込むことではないでしょうか。
