製薬企業の多くは、「患者さん一人ひとりに最適な治療を届ける」という理念を掲げています。

しかし、私たちは本当に「一人ひとりの患者」を見ているのでしょうか。

医薬品の研究開発では、臨床試験を通じて有効性と安全性が評価されます。その中心にあるのは、集団としての差、平均的な効果、統計的有意差です。

もちろん、これは必要です。

薬を社会に届けるためには、一定の科学的根拠と再現性が不可欠です。集団として効果があるのか、安全性に問題はないのかを確認することは、医薬品開発の大前提です。

一方で、臨床の現場にいるのは「平均患者」ではありません。

同じ疾患名であっても、病態、年齢、併存症、生活環境、服薬状況、薬剤への反応は一人ひとり異なります。

ある患者にはよく効く薬が、別の患者には十分に効かないことがあります。平均では有効とされる薬の中にも、強く反応する患者、副作用が出やすい患者、治療から取り残される患者が存在します。

つまり、平均値は重要である一方で、平均値だけでは患者の多様性を捉えきれません。

要約とは、意思決定を可能にするための手段です。

しかし同時に、情報を捨てる行為でもあります。

個別化医療やプレシジョン・メディシンが重要視される背景には、この限界があります。

これは単に遺伝子解析の話ではありません。

「平均の患者」から「目の前の患者」へ、研究開発の視点を広げるということです。

AIやリアルワールドデータの活用が進む今、私たちはかつてよりも多様で複雑なデータを扱えるようになっています。

だからこそ、研究開発も平均値だけではなく、その背後にある分布、構造、偏在に目を向ける必要があります。

製薬企業のミッションが「患者一人ひとりに薬を届けること」であるなら、研究開発もまた、一人ひとりの違いを消すのではなく、捉える方向へ進むべきではないでしょうか。

平均が不要なのではありません。

平均だけでは足りないのです。

患者中心の医療を本気で目指すなら、要約された患者像から、構造を持った患者理解へ。

そこに、これからのR&Dの重要な課題があると感じています。

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