【ワールドカップの熱狂から考える、平均では見えない“チームの構造”】
ワールドカップ盛り上がってますね。観ていると、改めてサッカーは「戦略のスポーツ」だと感じます。
リードした状態での終盤。
監督は守備的な選手を投入します。
実況では「守備を固めにきました」と言われます。
観ている側も、感覚的には分かります。
しかし、実際にはこういうことが起きます。
守備固めをしたはずなのに、急に押し込まれる。
攻撃的な選手を入れたはずなのに、チャンスが増えない。
中盤が間延びして、前線と最終ラインが分断される。
一人の名選手が止められた瞬間に、チーム全体が機能しなくなる。
これは単に「守備力が上がった」「攻撃力が上がった」という平均値だけでは説明できません。
ここで重要になるのが、チームの“水準”と“構造”を分けて考えることです。
水準とは、攻撃力や守備力がどれだけ高いかです。
これは平均値や合計値である程度見ることができます。
一方、構造とは、その力がチーム内でどのように分布しているかです。
同じ平均守備力でも、チームの中身はまったく違います。
全員が均等に守備へ貢献しているチーム。
一人の名センターバックに大きく依存しているチーム。
守備ブロックと攻撃ブロックに割れ、中盤が空洞化しているチーム。
平均値だけを見れば、どれも同じ「守備力」に見えるかもしれません。
しかし、現実の試合ではまったく違う意味を持ちます。
· 均衡型(正規):全員が中庸に守備貢献。1人欠けても崩れない。頑健。
· 集中型(偏り):一人の名CBが全部背負い、残りは薄い。平均は同じでも、その一人を消されれば即崩壊。単一障害点。
· 分極型(2峰性):守備ブロックと攻撃ブロックに割れ、中盤が空洞。守れるが攻守の遷移が壊れている。つまり、同じ平均でも、勝ち方も崩れ方も違うのです。
これが、私がDSAで見ようとしている世界です。
DSAは、単に「強いか弱いか」を見るものではありません。
平均値の裏側にある、分布の偏り、集中、分断、構造的な脆さを捉えるための考え方です。
サッカーで言えば、選手交代は単なるポジション変更ではありません。
その交代によって、チーム全体の構造がどう変わったのか。
守備は本当に頑健になったのか。
それとも、前線の保持力を失い、かえって押し込まれる構造を作ったのか。
攻撃力は上がったのか。
それとも、中盤の接続が壊れ、攻撃機会そのものが減ったのか。
ここを見なければ、采配の本当の意味は分かりません。
これはビジネスにも通じます。
企業も同じです。
平均的な営業力が高く見えても、実は一部のエースに依存しているかもしれません。
開発力が高く見えても、特定の人材に知識が集中しているかもしれません。
組織全体は強そうに見えても、部門間が分断され、攻守の切り替えができない状態かもしれません。
平均値は、分かりやすい。しかし、平均値は構造を隠します。ワールドカップの試合を観ていると、そのことがよく分かります。
「なぜ守備固めをしたのに失点したのか」
「なぜ攻撃的交代をしたのに攻められなかったのか」
「なぜ強いはずのチームが、ある瞬間から崩れたのか」
そこには、平均では見えない構造があります。DSAが目指しているのは、その構造を可視化することです。
同じ平均、違う構造。
同じ戦力、違う崩れ方。
同じチーム力、違う勝ち方。
サッカーは、それを最も直感的に教えてくれる教材かもしれません。ワールドカップで盛り上がる今だからこそ、改めて思います。本当に見るべきなのは、スコアだけではありません。平均値だけでもありません。その裏側にある、チームの構造です。
サッカーはさらに進んでいる
近年のサッカーでは、
- xG(Expected Goals)
- xA(Expected Assists)
- VAEP
- xT(Expected Threat)
- トラッキングデータ
- 選手位置データ
- パスネットワーク
- プレス分析
- スペース分析
などが利用されています。特にxGは有名で、「そのシュートが何%で得点になるか」
を推定します。今では欧州トップクラブも代表チームも、トラッキングデータとAIを活用する時代です。
ではDSAは何が違うのか
ここが重要です。現在のスポーツ分析の多くは、「価値評価」です。
例えば、
- この選手はどれだけ貢献したか
- このパスはどれだけ危険だったか
- このシュートはどれだけ入りやすかったか
を評価しています。
つまり、イベントの価値評価が中心です。
DSAが見ようとしているのは、「構造」です。
例えば、
- チームの守備力がどのように分布しているか
- 攻撃が一人に依存しているか
- 中盤が空洞化しているか
- 特定選手が単一障害点になっているか
という問いです。
xGとDSAの違い
例えば、AチームもBチームも平均xG = 1.8だったとします。現在の分析では、両チームとも同程度のチャンスを作ったと評価されます。
しかしDSA的には、
Aチーム
0.2
0.2
0.2
0.2
1.0
なら「エース依存」です。
一方、
Bチーム
0.36
0.36
0.36
0.36
0.36
なら「分散型」です。
平均は同じです。
しかし、
は全く違います。
ここがDSAです。
既存研究にも近いものはある
正直に言うと、DSAだけが唯一無二というわけではありません。
サッカーでは既に、
- ネットワーク分析
- フォーメーション分析
- チームコンパクトネス
- スペース支配分析
- トラッキングデータ解析
などがあります。
これらもチーム構造を見ようとしています。
しかし、これらは
パス
↓
ネットワーク
や
位置
↓
空間
を見ることが多い。
DSAは
能力
↓
分布構造
↓
脆弱性
↓
頑健性
を見る。
ここに違いがあります。
スポーツアナリティクスの世界から見ると、DSAは「新しい統計量」ではありません。
xGのような指標でもありません。むしろ、構造を読むための視点です。
だから私は、DSAの競争相手は
ではなく、むしろ
- ネットワーク科学
- 複雑系
- レジリエンス工学
- システム科学
に近いと思います。
スポーツ分析そのものではなく、
「同じ平均でも構造が違う」という考え方を、医療、企業、AI for Science、スポーツに横断的に適用できることだと思います。