箱ひげ図は、平均値や回帰係数だけでは見えなくなるデータの広がりを、中央値・四分位範囲・ひげ・外れ値として可視化します。つまり、少数の極端な値を含めて「どのようなデータが存在しているか」を理解する方法として優れています。

しかし、箱ひげ図で見えたデータが、その後の解析で生かされるとは限りません。

たとえば解析段階で、

  • 外れ値として除外する
  • 正規分布を前提とした平均値に集約する
  • 単一の回帰係数で全体傾向を表す
  • 多峰性や裾の偏りを誤差として扱う

といった処理を行えば、箱ひげ図では確認できていた少数群や極端値の情報が、最終的な結論から消えてしまいます。

したがって、「データの存在を可視化すること」と「そのデータが持つ構造を解析に残すこと」は別の問題です。

箱ひげ図は「存在」を示す

箱ひげ図が示すのは、主として次のような要約です。

  • 中央値
  • 第1・第3四分位数
  • 四分位範囲
  • 全体のばらつき
  • 外れ値候補

これは、平均値だけを見るよりはるかに豊かな情報です。一方で、箱ひげ図だけでは次のことまでは分かりません。

  • 外れ値が単なる測定誤差なのか
  • 特定の患者群を表しているのか
  • 分布が一峰性か多峰性か
  • 小集団が再現可能な構造を持つのか
  • その構造が原因なのか結果なのか
  • 交絡や選択バイアスによって生じたものなのか

箱ひげ図は「ここに通常とは異なるデータがある」と知らせますが、そのデータに解析上の意味を与えるところまでは担いません。

DSAは「データを消さずに、構造として扱えるか」を判定する

分布構造分析(DSA)の役割は、箱ひげ図で見えた極端値を、無条件に外れ値として削除することでも、逆に無条件に重要視することでもありません。

問うのは、次の点です。

その観測値は孤立した偶然の点なのか、それとも分布内に再現可能な構造を形成しているのか。

たとえば、全体平均では差が小さくても、分布の裾に一定の患者群が集中している場合があります。従来解析では、その患者群が全体のばらつきに吸収される可能性があります。

DSAでは、

  • 歪度
  • 尖度
  • 裾の構造
  • 局所的な密度
  • 多峰性
  • セグメント内の一貫性
  • 反復時の再現性

などを検討し、少数の観測値が分布構造を構成しているかを評価します。

つまり、箱ひげ図が「外側に点がある」と示すのに対し、DSAは「その点群を解析対象となる構造として認識できるか」を判定します。

ただし、DSAは必ず構造を発見する方法ではありません。単峰的で意味のある分離構造が確認できなければ、null_unimodalとして測定を拒否します。データを残すことと、そこに構造があると主張することは区別されます。

DAGは「その構造を因果的に解釈できるか」を判定する

DSAによって分布内の構造が確認されても、それだけでは因果関係を意味しません。

たとえば、特定の患者群で有害事象が多かったとしても、その背景には、

  • 年齢
  • 重症度
  • 併存疾患
  • 治療選択
  • 医療機関への受診経路
  • 欠測や脱落
  • 解析対象への選択条件

などが関係している可能性があります。

そこでDAG(因果構造モデル)は、DSAが見つけた分布構造について、

なぜ、その集団が形成されたのか
その構造をアウトカムの原因として解釈してよいのか

を検討します。

DSAが「何が存在するか」を扱い、DAGが「なぜ存在するか、どこまで因果的に主張できるか」を扱う関係です。

段階主な役割判断できること
箱ひげ図要約統計量の可視化極端値やばらつきが存在する
DSA分布構造の認識それが偶然の点か、再現可能な構造か
DAG因果構造の検証その構造が交絡や選択では説明されないか
Claim Gate主張範囲の制御記述・予測・因果・意思決定のどこまで許されるか

「含めたまま解析する」とは、全データを同じ重みで扱うことではない

ここが重要です。

DSA+DAGにおける「データを含めたまま解析する」とは、すべての観測値を無条件に正常値として扱うことではありません。また、極端値を因果的に重要だと決めつけることでもありません。

少なくとも次の三つを区別します。

  1. 測定誤差や入力ミス
    データ品質上の問題として検証する。
  2. 偶然に生じた孤立値
    データとしては保持するが、構造的意味を認可しない。
  3. 再現可能な少数群
    全体平均に吸収せず、分布構造として解析する。

この区別によって、「外れ値だから削除する」と「存在するから意味がある」という二つの短絡を避けられます。

DSA+DAGが目指すもの

従来の解析では、少数群は全体最適の陰に隠れやすくなります。箱ひげ図は、その少数群の存在を人間に気づかせることができます。しかし、その気づきを解析結果や意思決定へ接続する仕組みまでは備えていません。

DSA+DAGは、その間をつなぎます。

箱ひげ図は、平均値の外側にデータが存在することを見せる。
DSAは、そのデータが再現可能な分布構造を持つかを調べる。
DAGは、その構造を因果的に解釈できる条件を検証する。
Claim Gateは、証拠に応じて許される主張の範囲を制御する。

したがって、DSA+DAGの本質は、単に「外れ値を含める」ことではありません。

要約統計量によって圧縮される前の分布構造を保持し、その構造に対して因果的な意味を付与できるかを段階的に審査することにあります。