私が子供の頃、日本は世界最大のトランジスタ生産国でした。
ソニー、日立、東芝、松下、NEC。日本のメーカーの名前が世界中で知られ、日本製のテレビやラジオ、オーディオ機器は「高品質」の代名詞でした。Made in Japanは、信頼と憧れを意味する言葉へと変わっていきました。
ウォークマンをはじめ、日本から世界の生活を変える製品も生まれました。
ところが、いつからでしょうか。
気がつけば、私自身がAppleの新製品に憧れるようになっていました。仕事ではWindowsを使い、検索はGoogle、買い物はAmazon、SNSはMeta。日常生活のあらゆる場所が、いわゆるGAFAMのサービスに囲まれています。
日本の技術力が突然なくなったわけではありません。
今でも日本には、素材、精密機器、センサー、製造装置、医療機器、ロボティクスなど、世界的な競争力を持つ技術が数多く存在しています。
では、何が変わったのでしょうか。
「世界のイノベーションの勝ち方」が変わったのです。
かつての日本が得意だったのは、優れた技術を取り込み、改良し、高品質にし、小型化し、安定して大量生産することでした。
技術 → 改良 → 製造 → 品質 → 製品
このチェーンを極限まで磨き上げることで、日本は世界を席巻しました。
しかし、デジタル化によって競争の中心が変わりました。
重要になったのは、必ずしも最高品質の「モノ」を作ることだけではありません。
新しい市場をつくり、OSやプラットフォームを押さえ、そこに利用者と企業を集め、データを蓄積し、さらにサービスを成長させていく。
技術 → 市場 → プラットフォーム → データ → エコシステム
という新しいチェーンです。
Appleが作ったのはスマートフォンだけではありません。iPhoneを中心に、OS、アプリ、決済、コンテンツ、クラウドまでをつなぐ「世界」そのものを作りました。
日本は技術を失ったのではなく、優れた技術を持っているだけでは勝てない時代になったにもかかわらず、その技術をつなぎ、価値を増幅させる仕組みを作ることへの転換が遅れたのです。
そして今、AIによって再び競争のルールが変わろうとしています。
日本には、まだ技術があります。現場があります。そして、そこから生まれるデータがあります。
必要なのは、それらを個別に磨き続けることだけではありません。
技術とデータをつなぎ、AIによって知識へ変え、信頼できる意思決定へつなげることです。
かつて日本が「製造と品質」で世界の技術を価値に変えたように、次は「デジタルとAI」で日本の技術をつなぎ直す。
日本がもう一度、世界から憧れられる側に戻れるかどうか。
その勝負は、もう始まっています。
