量子コンピューターカテゴリーの某ピッチにDSA+DAGを基盤とした提案を行いました。DSA+DAGのアルゴリズムを、量子アニーリングにも接続可能な解析基盤として扱う提案です。実社会の複雑なデータを、AIや計算機が扱える形に変換するためのオペレーティングシステムとしての提案です。

Finalまで進みましたが、予想通り、結果は不採択でした。質疑応答で、自社プロダクトについては答えられても、量子コンピューターに関する質問に答えられずボコボコだったからです。しかし評価内容は否定的なものではなく、因果探索を量子アニーリングで扱う方向性、DAG学習をQUBO化する発想、産業応用を見据えた姿勢については、一定の評価をいただきました。

指摘されたのは、なぜDSA+DAGを量子コンピューターに接続する必要があるのか、量子優位性や新規性の根拠が十分に整理されていない、という点でした。

この指摘は妥当です。しかし同時に、私はここに重要な認識のズレを感じました。私は量子コンピューターにこそ「DSA+DAGが必要」だと考えており、DSA+DAGに「量子コンピューターが必要」と考えているわけではないという点です。

AIも古典コンピューターも急速に進歩しています。その結果、量子コンピューターだけが圧倒的に優位であると示すことは、以前より難しくなっています。むしろ重要なのは、どの計算基盤を使うかではなく、現実世界の複雑なデータを、どのように計算可能な問題へ変換するかです。

純粋持株型の量子銘柄の多くは年初来で28〜33%下落し、2024年末から2025年初頭の高揚した高値から後退しています。2025年は記録的な株高だったが、2026年前半に投資家心理が悪化。利益確定や、量子が未来の計算であってもその未来は数年先だという冷静さ、加えてAIバブル懸念や経済不安といった外部要因が引き下げています。専門家の見立ても辛口で、大半の実世界アプリケーションにおいて、量子コンピューターは依然としてよく設計された古典コンピューターを実証的に上回る実用的タスクを一つも実行できておらず、広範な商用利用までは大半の専門家の推定で5〜10年とされています。

ここで思い出すのが、富士フイルムとコダックの対比です。写真フィルム市場がデジタル化によって縮小していく中で、富士フイルムは自社を単なる「フィルム会社」としてではなく、化学、材料、画像処理技術を活かす会社へと再定義しました。その結果、医療、化粧品、液晶材料、医薬品などへ事業領域を広げることができました。

一方、コダックはデジタルカメラの技術を知らなかったわけではありません。むしろ早い段階からデジタル技術を持っていました。しかし、既存の高収益なフィルム事業を守る意識が強く、時代の変化に合わせた事業定義の転換が遅れました。その結果、デジタル化の波に対応しきれず、経営破綻へと追い込まれました。

この違いは、技術を持っているかどうかだけでは決まりません。自社の技術を、次の時代に合わせてどのように再定義できるかで決まります。

同じことが、計算技術の世界にも起きています。重要なのは、量子か古典か、AIか統計か、という技術単体の優劣ではありません。次の時代に必要なのは、あらゆる計算基盤に接続できる「問題を定義する技術」です。

リアルワールドには、医療データ、産業データ、行動データには、外れ値、偏り、多峰性、欠測、交絡、サブグループの混在が含まれます。これらを平均や相関に単純圧縮してしまえば、現実の構造は失われます。DSA+DAGは、その分布構造を保ったまま、因果仮説や探索空間を整理するための方法論です。

DSA+DAGは、量子コンピューターありきの技術ではありません。むしろAI、古典計算、量子計算のいずれにも必要となる、実世界データの構造化エンジンです。今回の不採択は、失敗ではなく、技術の見せ方を変えるべきだという重要な示唆だったと受け止めています。