高市首相が、内閣支持率の低下について理由がわからないと答弁したことが話題になっています。アナリストも原因特定は難しいと言っています。
従来分析では、なぜ原因が分からないのか
通常の世論調査では、まず全体の支持率を比較します。
先月70% → 今月62%
したがって8ポイント低下
しかし、これは結果の集計であって、低下を生んだ構造ではありません。
次に、年代別、性別、地域別などを個別に見ます。
- 若者で低下した
- 女性で低下した
- 都市部で低下した
- 無党派層で低下した
ところが、実際の支持変化は、
若者だから下がった
女性だから下がった
地方だから下がった
という単純なものではありません。
例えば、
30代女性 × 首都圏 × 無党派 × 子育て世帯 × 物価上昇を強く実感 × 消費税減税を期待していた層
では大きく低下した一方、
30代女性 × 地方 × 自民党支持 × 安全保障重視層
では支持が維持されている可能性があります。
つまり、年齢、性別、地域がそれぞれ独立して作用するのではなく、条件の組合せによって意味が変わるのです。
分布構造分析が見るのは「平均低下」ではなく「低下の形」
分布構造分析を使うなら、支持率が何ポイント下がったかだけでなく、回答者ごとの支持変化を構造化します。
例えば、前回と今回の回答を追跡できるパネルデータがあれば、回答者を次のように分類できます。
- 支持を維持した
- 支持から不支持へ転じた
- 支持から判断保留へ移った
- 不支持から支持へ転じた
- 一貫して不支持だった
そのうえで、分布構造分析は「支持離れした人の平均像」を作るのではなく、支持離れが集中している複数の構造を探索します。
例えば、同じ支持離れでも、
- 物価・減税を理由とする生活防衛型
- 政策の後退や説明不足に反応した期待剝落型
- 皇室・外交・安全保障など個別政策への反発型
- 政権運営や発言への信頼低下型
- 特定の出来事ではなく、複数要因が蓄積した漸減型
に分かれているかもしれません。
全体支持率という一つの数字の内部に、異なる理由、異なる速度、異なる条件を持つ複数の支持離れが混在している可能性があります。
これはまさに、平均値や単純なクロス集計によって隠される分布構造です。
DAGは「誰が離れたか」から「なぜ離れたか」へ進む
ただし、分布構造分析だけで原因を断定することはできません。
そこでDAGを使い、支持率低下に至る仮説構造を明示します。
例えば、
物価上昇の実感→ 政府の経済対策への評価低下→ 首相への信頼低下→ 内閣不支持
という経路が考えられます。
一方で、
年齢→ 利用するメディア→ 接触する政治情報→ 政策認識→ 支持変化
という経路もあります。
この場合、年齢は支持低下の直接原因というより、情報接触や政策評価を変える上流条件かもしれません。
さらに、
所得
→ 物価上昇の負担感→ 減税への期待→ 政府対応への失望→ 支持離れ
という経路も想定できます。
性別や地域も同様です。性別そのものが支持率を下げるのではなく、就業形態、家計負担、子育て、介護、情報接触などを通じて影響している可能性があります。
したがってDAGの役割は、属性をそのまま「原因」と呼ぶことではなく、
どの属性が、どの経験や認識を通じて、支持変化につながったのか
を分解することです。
分布構造分析(DSA)+DAGなら「支持率低下の原因」を単一回答にしない
この問題に対する最も重要な転換は、原因を一つに決めようとしないことです。
従来の政治分析では、
- 消費税政策が原因
- 皇室問題が原因
- 物価高が原因
- 説明不足が原因
- 保守層離れが原因
といった単一のストーリーを競わせがちです。
しかし実際には、支持率低下は複数の経路の合成である可能性が高いでしょう。
DSA+DAGなら、例えば次のように表現できます。
全体の支持率低下は単一要因ではなく、
①若年無党派層における経済政策への期待剝落、
②従来の保守支持層における個別政策への反発、
③女性・子育て世帯における生活負担と対策評価の乖離、
④政権運営への信頼低下、
という異なる構造が、異なる集団で同時に発生した結果である。
ここまで示せれば、「支持率が下がった理由が分からない」という状態から、かなり前進します。
ただし、公開されている集計表だけでは足りません
最大の課題はデータです。
報道機関が公表する、
- 全体支持率
- 男女別
- 年代別
- 政党支持別
程度の集計表では、十分なDSA+DAG解析は困難です。
必要なのは、可能なら同一人物を追跡した匿名化個票データです。
最低限でも、
- 前回と今回の支持回答
- 年齢、性別、地域
- 所得や職業、世帯構成
- 政党支持
- 重視する政策
- 各政策への評価
- 首相への信頼
- 利用メディア
- 調査期間中に認識した出来事
- 支持・不支持理由の複数回答または自由記述
が必要です。
特に重要なのは、単月の横断調査ではなく、同じ回答者が支持から不支持へ変化した過程を追うパネル調査です。異なる人を毎月調査しているだけでは、本当の意見変化と標本構成の変化を区別しにくいからです。
結論
これは従来型の支持率分析の限界を示す典型例です。
支持率という一つの平均値が下がったとき、求めるべきなのは「最大の原因は何か」という一つの答えではありません。
誰の支持が、
どの条件の組合せで、
どの認識変化を経由して、
どの出来事の後に失われたのか。
DSAは、全体値の内部に隠れた複数の支持変化構造を発見します。
DAGは、それぞれの構造について、原因候補と媒介経路、交絡を整理します。
したがって、DSA+DAGが提示する答えは、
「支持率低下の理由はこれです」
ではなく、
「支持率低下は、異なる集団における複数の因果経路が合成されて生じています」
となります。
それこそが、首相にもアナリストにも説明できなかった「理由」を、説明可能な構造へ変える分析だと思います。
