2時間も待ったあげく、診療時間は僅か1~2分。その後も支払いを済ませ薬を受け取って帰るまでさらに数時間かかる。このような状況に不満を感じる患者さんは少なくないでしょう。
大学病院など、規模の大きな病院では、何かしら具合の悪い患者さんたちが長い行列を作っているのをみると何とかならないもとかといつも感じます。
ではAI診断技術はこの問題を解決するでしょうか?
私は、この問題はAIの診断精度だけでは解決しない一方で、AIが「意思決定の主体」になれるレベルまで信頼性が高まれば、医療提供体制そのものを変える可能性があると考えます。
現在のAI診療支援は、多くの場合、
AIが解析 → 医師が確認・判断 → 医師が責任を負う
という構造です。
このため、AIがどれだけ優秀でも、最終的に医師が診断内容を確認しなければならず、医師の時間は大きく減りません。実際には「AIによる事前整理」「見落とし防止」「文書作成支援」などで数分短縮できても、診察時間を劇的に短くするには至っていません。
一方で、もしAIが
- 診断精度
- 較正(確率の信頼性)
- 説明可能性
- 安全性
- 継続的な監査
を備え、「この疾患では医師と同等以上の判断ができる」と社会的・法的に認められるなら、診療の流れは変わります。
例えば、
- AIが問診・画像・検査を解析
- AIが診断・治療方針を決定
- 医師はAIが「判断困難」と判定した症例や高リスク症例のみ担当
という形になれば、医師一人が診られる患者数は大幅に増えます。
そうなると、
- 「2分診療」
- 長時間待ち
- 医師不足
といった問題はかなり改善される可能性があります。
ただし、ここで最大の壁になるのは技術ではなく制度です。
現在の医療制度では、
- AIは責任主体になれない
- 医師が最終責任を負う
- 診療報酬も医師の診療行為を前提に設計されている
ため、AIが医師並みに正確でも、そのまま代替することはできません。
つまり、
技術は進歩しても制度が追いつかない
という状況です。
先にコラムとした、「現在のAIは予測までは進んでも、意思決定には届いていない」
という考え方と、この問題が非常によく対応していることです。
診断AIは既に「予測」はかなり得意になっています。
しかし、医療で必要なのは
- この患者には検査を追加すべきか
- この薬を開始すべきか
- 入院させるべきか
- 経過観察でよいか
という意思決定です。
現在は、その最後の一歩を医師が担っています。
一方で、AIが本当に意思決定を代替するには、単に高い正答率だけでは足りません。
必要なのは、
- どのような条件なら判断できるか
- どのような条件では判断を拒否するか
- 判断根拠が妥当か
- 外れた場合に原因を追跡できるか
といったAI自身のガバナンスです。
つまり、「AIが正しい答えを出すこと」だけでなく、「AIが判断してよい範囲を自ら管理できること」が求められます。
「医師不足」「短時間診療」「制度疲弊」に対する本質的な解決策は、
AIが医師を支援する時代から、限定された領域では医師と同等の責任を担えるレベルまで進化し、その前提に合わせて制度・責任・監査の仕組みを再設計すること
なのかもしれません。
そのとき初めて、「2時間待って2分診療」という構造そのものを変えられる可能性があります。
