「医薬品ビジネスのマーケティングは真にマーケティングか?— 営業現場が感じるリアルな違和感」
製薬業界のように厳格な規制を受け、ターゲット設定やKPIの管理が行われる場合、本社と現場の間での認識の相違がしばしば表面化します。本社のマーケティング担当者は自分たちのプランを「マーケティング」だと信じて日々奮闘していますが、実際の顧客に最も近い営業担当者が感じる「これはマーケティングではない」という違和感。その要因を両者の視点から掘り下げてみましょう。
マーケティング担当者の視点:管理された戦術としてのマーケティング
本社のマーケティング担当者は、ターゲット顧客やメッセージの内容、達成すべきKPIを策定し、MR(医薬情報担当者)が現場で効果的に伝えられるように、顧客が求める価値や製品の独自性を最大限引き出すためのツールや資料を整えています。このプロセスは、マーケティングの本来の役割である「顧客のニーズに応じた価値提供」を実現しようという意図のもとで行われています。しかし、規制が厳しく消費財ビジネスのような自由なマーケティングができないため、形式的にターゲットやメッセージを管理するに留まるものになっているのが現状です。
本社でのマーケティング活動は、顧客に対して間接的なアプローチを行うものであるため、「情報提供」や「認知度向上」が主目的となっており、営業活動の補佐的な役割に留まります。これが単なる販売促進に留まらず、顧客との価値ある関係を構築し、継続的にその期待に応え、顧客にとっての価値を提供し続ける包括的なプロセスである「広義のマーケティング」とは少し異なるものになっていることを、マーケティング担当者は認識しないまま、自分たちの活動を「これがマーケティングだ」と信じて実行しているのです。
営業担当者の視点:現場のリアルとプランとのギャップ
一方、日々顧客と接する営業担当者は、マーケティングプランが現場のリアルな顧客ニーズと合致しているかどうかを肌で感じています。ターゲット選定やKPI管理、統一されたメッセージが、実際の顧客との対話の中でどの程度価値があるかを観察し、その効果をリアルタイムで評価しています。このため、顧客の細かいニーズや反応が本社のプランと合致しない場合、「これはマーケティングではなくただの指示ではないか?」と疑問を感じることになります。
現場の営業担当者は、「顧客との対話の中で生まれる信頼や柔軟な対応こそが、真の価値提供に繋がる」と考えています。したがって、画一的なメッセージやKPI設定では、顧客に響くアプローチができないと感じ、本社のマーケティング活動に違和感を覚えるのです。
両者のギャップを埋めるには?
このようなギャップを埋めるには、マーケティング担当者が現場の声に耳を傾け、双方向のフィードバックの仕組みを取り入れることが重要です。営業担当者の知見を反映した柔軟なマーケティングプランや、活動を通じて顧客の購買行動のプロセスの促進を表すKSF(最重要成功要因)、を取り入れることでマーケティング部門と営業部門の連携を生み出し、結果的に営業現場での違和感を解消し、顧客にとって実感できる価値を提供するマーケティングが実現するのです。
最後に
「本社のマーケティングは本当にマーケティングか?」この問いかけは、両者がいかに顧客視点を重視し、業務の中でその価値を最大化できるかを再考させる重要なテーマです。製薬業界では規制による制約も多く、営業部門とマーケティング部門が真の意味での価値提供を実現するには、お互いの視点を尊重しつつ、顧客中心のアプローチを模索することが不可欠です。